ライター×マインド

ライターは取材先に原稿確認を頼むべきか否か【結局は読者のため】

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「記者やライターが取材先に原稿チェックを頼むことは当たり前だ」「いやいや、記事が世に出るまでは見せるべきじゃない」

記者やライターの仕事をしている皆さんはどう考えるでしょうか。

インターネットで目に留まりやすい記事を複数読みましたが、ちょっと極論が多い印象を受けたので、今回は元記者のフリーライター・ショウブ(@freemediwriter)が自分の考えを書きます。

結論から話すと、

  • 事前の原稿確認はケースバイケース。見せてはいけないものもある
  • かりに見せたとしても、取材記事は読者のためのもの
  • 取材先に敬意を払いつつ、「読者のためにどうか」を考える
  • 取材先の言う通りに直してはいけない場合がある

「取材先の原稿確認は当たり前か」。これは、「記者やライターとして誰のために仕事をするのか」という本質的な問いを自分に投げかけるテーマなので、ライター業を続ける人であれば一度じっくり考えてみるといいかもしれません。

現時点でのわたしの考えを書きますね。

原稿を見せるか否かは業界で違う

わたしは2007年の大学卒業からタウン誌の出版社や新聞社で記者として働き、2016年にフリーライターとして独立してからは週刊誌、専門誌、広報誌、ウェブメディア、オウンドメディア、ホームページなどさまざまな媒体に記事を書いてきました。

こうした経験を重ねることで、取材先に原稿を確認してもらうかどうかは業界によって異なることがわかりました。

まず前提として、企業などがお金を払って自社をPRするための広告記事は、広告主などに原稿を確認してもらいます。

これは記事の目的から考えて「まあ、そうだろう」と捉えやすいでしょう。

業界で対応が異なるのは、広告記事ではない取材記事です。

掲載前に取材先に原稿を見せるか

  • 新聞、週刊誌など→見せない
  • 上記以外→見せる

大まかに言えば、上の通りだと考えます。

わたしの印象からすれば、「記事を事前に見せない」点で最も明確な対応を取ってきたのは新聞社ではないでしょうか。

わたしが過去に所属していたタウン誌の出版社と新聞社も、「基本的に掲載前に原稿は見せない」ルールがありました。

これは、「編集権は取材先でなくメディア側にある」という考えの表れでしょう。「編集権」の意味は下記ご参考ください。

編集権

新聞・雑誌・書籍などの編集方針を決定し、それを実施して一切の管理を行う権限。―デジタル大辞泉

1948年に出された日本新聞協会の「編集権声明」は、編集権を、「新聞の編集方針を決定施行し報道の真実、評論の公正並びに公表方法の適正を維持するなど新聞編集に必要な一切の管理を行う権能」と定義し、その上で、編集権の行使者を、「経営管理者(取締役会、理事会など)およびその委託を受けた編集管理者」としている

これは、第2次大戦終了直後の新聞民主化運動の中で生じた、編集権の所在をめぐる組合側と経営者側の紛争に決着をつけたものであり、基本原則としては今日も通用している。―知恵蔵

編集権を全てに適用させていいか

ここで関心を持つのが、「編集権を全ての記事に適用させていいか」。わたしは、「それは記事のジャンルや内容で異なる」と考えます。例を挙げますね。

原稿を見せてはいけないもの

  • 国や企業の不正を暴くものなど、取材先からすると「記事を出されるのは嫌」だが、世のために必要だと考えられる記事

内容を問わず、現実的に見せることが難しいもの

  • 通信社の配信など速報性が求められるもの

記事を見せてもいいもの、むしろ場合によってはお願いしたいもの

  • 人物紹介など、取材する人や事象の魅力を全面的に伝えようとするもの
  • 患者や障害者、性的少数者などが取材先で、書きぶりによっては当人の尊厳を損ねる可能性があるもの
  • 取材テーマが非常に専門的であり、素人ではニュアンスの汲み取り違いなどが起こり得るもの

あくまでもわたしの考えです。

わたしは会社員記者だった7年間、ひとつの記事を除いて取材先に原稿を確認してもらったことはありませんでした。

それは会社のルールに無思考に従っていたほか、そもそも相手から原稿確認の希望を伝えられなかったためでもあります。

事前に内容を確認してもらった「ひとつ」というのは、性同一性障害を抱える音楽家の半生を紹介するもので、これはご本人が「見せてほしい」と希望されました。

このときは上に挙げた例と同様、「書きぶりによっては本人を傷つけてしまう恐れがある」と考え、上司に判断を仰がず、会社には内緒で確認してもらいました。

新聞社でも記事を見せる時代に

基本的に、新聞社は取材先の事前チェックは受けない

こんな印象だったのですが、時代は変わりつつあるのかもしれません。

「医療記事はデリケートだから事前に内容を確認させてもらってるよ。新聞社でもそれは同じで、A社、B社、C社の取材では見せてもらったね。ただ、D社の記者だけは頑なに『それはできません』の一点張りだった」

独立後に取材させてもらったある病院長は雑談の際にこう話し、また複数の元新聞記者も「人物取材など問題ないと思うものは見せることもありましたよ」。

知人によると、私と同じように会社(デスク)には内緒で記事の内容を見せていた新聞記者もいたといいます。

「新聞社」という企業としては現在、どんなスタンスなのでしょう。

会社としては基本的にノーだけど、新聞記者は個人の裁量が大きい職業。ケースバイケースで個人的に見せている人もいる

これが実情に近いかもしれませんね。

「読者のためにどうか」が大事

わたしの考えは上に書いた通りケースバイケースですが、広告ではない取材記事は詰まるところ、読者のためのものであると考えます。

ですから、記事を見せても見せなくても、最も大切なのは「読者のためにどうか」を考えることではないでしょうか。

取材をすると、取材相手のさまざまな魅力を知ります。ときに「この人は本当にすごいな…」とほれ込んでしまうことも。

記者・ライターと取材相手は心理的に近くなってしまう可能性があるわけですね。

「この人のいいところをたくさん伝えたい」とわたしも思うことがありますが、とはいえ、書き手は取材先をPRするために記事を書いているのではありません

第一には「読者に有益な情報を届けるために書いている」のだとわたしは考えます。

取材先の言う通りに直してはダメ

この点でわたしが気を付けているのは、「取材先から言われるままに原稿を直さないこと」。

取材先は多くの場合、文章を書く仕事をしてきた人ではありませんから、場合によっては修正希望点について下のようなことが起こります。

  • 表現がわかりづらく読みづらい
  • (自分を良く見せようとしているためか)過剰な表現が多い
  • 読者層や記事テーマを考慮すると不要だと思う箇所がある

こんなときは、文章を補ったりカットしたり、表現を変えたりして、読者が読みやすいよう、わかりやすいようにリライトしていきます。

修正希望点はあくまでも参考

取材先から修正希望点を伝えられるのは、書き手としては大なり小なり心理的な圧力がかかることではないでしょうか。

わたしも場合によってはそれを目にしたときに「うっ」と応えることがありますが、「よし、取材先の意図を汲み取りつつ、もっといいものにするために直していこう」と気持ちを切り替えるようにしています

「自分の希望点がそのまま反映されるもの」と取材相手が原稿確認の意味をそう捉えていそうな場合は、やんわりとこちらの意図を伝えることもあります。

「ありがたく参考にさせていただきます。読者が読みやすいよう、理解しやすいものになるようリライトしていきますね」とこんな感じで。

見せても見せなくても「甘え」が生まれる恐れ

思うに、取材相手に原稿を見せても見せなくても、書き手には何らかの甘えが生まれる可能性があるのではないでしょうか。

見せない方針を貫こうとすることで、記者やライターの権力意識が増長され、そのために取材相手をないがしろにしてしまう可能性があると思いますし、また「見せることが当たり前」といったスタンスだと、「誤りがあったら取材先が指摘してくれるだろう」といった慢心が生まれ、記事の精度が落ちてしまう、それが結果的に取材相手の信頼を落とす――可能性もあるのではないかと。

まとめ

  • 原稿を見せることも見せないことも「当たり前」ではない
  • 中には見せてはいけない性質の記事がある
  • 見せたとしても修正希望点は参考に留める
  • 「読者のためにどうか」を考えてリライトする

「取材相手の原稿確認」をテーマにしたときのわたしの考えを再度、まとめました。

「これは広告記事ではない。参考にする意味で協力をお願いしている」

場合によっては上のような意味のことを取材相手に伝える必要があり、これはライターとしてはけっこうエネルギーが割かれることではあります。

しかし、読者のためにはここで腰を落として踏ん張り、取材相手と向き合わないといけないとわたしは考えています。

このテーマはわたしもまだ考え中でまとまりに欠いた印象ですが、同業者やライター志望者の参考になればうれしいです。

フリーライターの庄部でした。

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