「活字離れ」と言われるようになって久しいですが、果たしてそれは本当でしょうか。
確かに紙を通して文章を読むケースは全体的に減ったと思いますが、今はスマートフォンなどのデジタル端末で手軽に文章を読むことができますよね。
ネットニュースやブログ、フェイスブック、ツイッター…。インスタグラムも写真の下に記載されている文章を読むのでは。
スマホで雑誌や漫画を読むことも増えています。
「活字離れ」は新聞や本、雑誌を発行する会社本位の言葉であって、正確には「紙離れ」だとわたしは思うのです。
もしかしたら、「活字離れ」と言うことで、人々の危機感を煽り、紙媒体の購読を促そうとする企業の思惑もあるのかもしれません。
「文章を読む機会はむしろ増えていて、文章を読み解く力の必要性はますます高まっている」。そう、わたしは考えています。
そこで今回は、フリーライターのショウブ(@freemediwriter)が読解力を高めるために知ってほしいことを書きます。
結論から言えば、その一つは「書かれていないことに着目し、その背景を想像すること」です。
これは、ライターが取材力を高めるためにも意識しておいた方がいいことではないでしょうか。
「書かれていない=知られたくない」ケースも
文章を読むとき、書かれていることの中から重要な箇所をピックアップして、そこから想像を広げたり、記憶に留めたりすることは大切です。
それと同時に、書かれていないこと、または「書かれていることの中における書かれていないこと」が何かを考え、心に留めることも同じくらい大切です。
なぜなら、書かれていないことは書き手があえて書かなかったことである可能性があり、それは書き手にとって読者に知られたくない部分であるかもしれないからです。
ライターであるわたしの仕事に引きつけて書きますね。
例えば開業医を取材する際、その人が運営するクリニックのホームページを読みますが、まれに医師のキャリアが書かれていなかったり経験してきた診療科を明かしていなかったりするケースがあります。
今は医師も情報を公開している人が多く、書いていないのは時代の流れに逆行しているようにも思えますが、なぜでしょう。
患者の窓口となるホームページですから、「単に書き忘れた」は想像しづらい。
2018年4月までに194人の医師を取材したわたしであればこう考えます。
「一般の人にキャリアを知られたくないのかな? そうであれば勤務医時代に外科を専門にしていたのかな。それか、医師としてのキャリアが短いか。いずれにしても、明かしていない理由が何かあるのかも。聞いてみよう」
また、歯科医師を取材するための準備をしているときに、その人が別のインタビューに「医療系に興味があり、歯科医師になった」と答えていた場合。
「医療『系』と表現していて、具体的な職種を書いていないのはなぜかな。医師を目指していたけど医学部の試験には通らなかったから、歯学部に進んだのかな」
ちょっと短絡的に書きすぎましたが、こんなふうに想像を巡らせます。
上の2つとも、想像通りである場合はあります。
クリニックでは、医師は入院を要する手術ができません。外科医は手術を主に行う人ですから、ある意味では自分が培ってきた技術を生かすことができないわけです。
例外はありますが、問診や触診、聴診などを通した診断や、薬物療法を行ってきた経験は内科医より少ないことが多い。
と、ここまで書きましたが、わたしは何も、「外科出身の開業医は内科出身の開業医に劣る」と言いたいのではありません。
外科出身でも、日帰り手術などを専門に行うクリニックを開いていたり、コミュニケーション力が高く、患者は相談しやすいだろうと思ったりする人もいます。
そもそも、開業医は高度な医療を行う「名医」である必要はなく、患者の悩みに寄り添い、必要に応じて適切な医療への道筋をつくる「良医」を目指す方がいいとわたしは考えています。
わたしが言いたいのは、外科を専門にする開業医が一般の人の目線を気にして、キャリアを公開していないことはある、ということです。
ライター庄部が印象操作をしようとしている例
わたしにも同じことが言えます。
例えばブログのトップページに記載しているプロフィール。
「出版社と新聞社で7年間、記者の経験を積み」とありますが、出版社と新聞社の名前やそれぞれで働いた年数の内訳は書いていません。
プロフィールを長ったらしくしないためですが、別の理由もあるんですね。
「出版社」というのは、詳しくは「タウンニュース社」というタウン誌を発行している会社で、タウンニュースという媒体はフリーペーパーでもあります。
「新聞社」は九州を拠点にする西日本新聞社です。
タウンニュース社に5年、西日本新聞社に2年いました。
さて、どうでしょうか。
こんなふうに具体的に書かれると、また印象が違ってくるかもしれませんね。
「タウン誌よりも新聞社の方が格上」だと思っている人であれば、「新聞社での経験はわずか2年」、という印象が強くなる可能性があります。
一方、「出版社」に対して、書店に並ぶ本や有名雑誌を発行する会社をイメージしている人であれば、「なんだタウン誌か」と格落ち感を抱く人がいるかもしれません。
わたしはそれぞれの会社で働いて良かったと思いますし、確実にフリーランスとしての今の自分に生きています。
しかし、名前や数字に対する印象は人によって違いますから、トップページでは「ぼんやりと良さげな印象」を持たれるよう、こう表現しているわけです。
年数にしても、記者経験でくくって5と2を足し、「7」と表現する方がインパクトがあります。
その上で、わたしに興味を持ってくれた人に対しては、医療特化サイトの方で詳しいプロフィールや実績を見ることができるようにしているのです。
書かれていないことが魅力になることも
このように書き手は、何を書いて書かないかを、または書くとしてどう表現するかを、その人自身やその人が所属する企業などとの価値観と照らし合わせながら検討しているわけです。
「客観的に書く」などと記者やライターがスタンスを語っていることがありますが、100%客観的に書くことはできません。
何を書き、何を書かないかと考えている時点でそれは主観的な作業だからです。少なからず書き手の考えは文章に反映されます。
その上で、「書かない」と結論付けた部分が、実は書き手の人間臭いところだったり、はたから見れば魅力だったりすることもあるんですね。
たとえば取材中に医師が外科出身であることがわかり、キャリアのことが話題に上ったときに、こんな面白い話を聞けたことがあります。
「俺がいた病院はある外科の分野でとても優秀な医師が揃っているところだったんだけど、俺はその人たちには遠く及ばなかったんだよ。
全国から患者を呼べるほどじゃなかった。
先輩はよく『患者の命を預かる外科医に二流は要らない』と言っていたね。だから病院を辞めた」
「華やかで、ある程度のお金を持ち、人から尊敬されやすい」というイメージを持たれがちな医師という職業。
でも実際の現場では、医師は大きなプレッシャーの中で働いていて、また、外科に関して言えば、医師の技術の拙劣が命を損ねてしまうこともあります。
「手術の結果で体に大きな障害が残ってなお、自分に頭を下げて帰っていく患者さんとその家族の背中を見て、心が折れてしまった」
「組織内の権力争いに疲れた…」
医師としての転機についてこんなふうに自分の胸の内を語ってくれた人もいました。
わたしはこんな話を聞いて、ぐっと来ました。
壁にぶつかったり、何かに敗れたりした経験をその人が自ら大っぴらに書くことは少ないわけですが、でも、こうした経験が、人としての魅力を深めたんだろうと推察されることはよくあるんです。
わたしも新聞社を辞めた理由はネガティブなもので、警察記者の仕事がつらく、逃げるように環境を変えたというのが実際のところでした。
文章を鵜呑みにせず、疑いの目を持つことが大切
文章は基本的に利己的なもので、書き手が印象操作をしようとしがちなものであるとわたしは考えています。
記者・ライターをしてきた職業柄、過敏に反応しやすい側面があることは否めませんが、それでも、書かれていることを鵜呑みにするのは危険だと言いたい。
書かれていて自分に役立つことは取り入れつつ、疑いの目を持って妄信しないことが大切ではないでしょうか。
そして、書かれていないことの中にこそ、書き手の繊細な気持ちや人間臭い魅力、どろどろとした感情、欠点や弱点が隠されていることがあることを知ってほしいと思うのです。
その部分にうまく触れることができれば、取材の深度が格段に増すこともあります。
「何が書かれていないか」
「なぜ書かれていないのか」
こういった視点を持つと、より賢く、文章を読み、取材の準備ができるようになるのではないでしょうか。
フリーライターの庄部でした。
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