「取材ライターの仕事に興味があるけど、さあ、何を取材しよう」「分野選びが大事だとは聞くけど、どうもピンと来ない」
今回はそんな人に向けて、2019年8月現在で医療ライター歴3年半になるショウブ(@freemediwriter)が、医療分野を勧めたい理由を書きます。具体的には下の六つの理由についてそれぞれ解説していきます。
- 医師は取材しやすい
- 準備の大切さがわかる
- わかりやすく書く技術が上がる
- ライターとしての倫理観が身につく
- 人の役に立っている想像をしやすい
- 書ける媒体が豊富
「何を取材したらいいか」に正解なんてないですし、その人の好きにしたらいいと思います。
わたしはブログやツイッターでよく見る「~すべし!」といった断定的な発言が嫌いで、基本的には我関せずといいますか、「好きにしたらいい」というスタンス。
自分がやりたいように、好きなように、楽しいと思うことをしたらいいと思う。
とはいえ、医療を専門に約500人の医師と歯科医師を取材する中で医療取材の楽しさやメリットを感じているので、その内容を紹介することで医療取材に興味がある人が増えればうれしいです。
医療を取材する人が増えて、患者や医療者の役に立つきっかけが増えればうれしいからです。
「いい人が多いから」医師が圧倒的に取材しやすい理由
なぜ取材初心者に医療分野を勧めるかというと、医師は他の業種の人に比べて圧倒的に取材しやすいからです。
医療取材について難しそうな印象を持っている人は少なくないと思うんですが、それはライター周りでも同じのようで、わたしは過去にフリーライターや編集者に医療を取材していることを話したところ、「すごいね」「難しそうだね」と言われたことがあります。
「そんなことはない」というのがわたしの実感です。
わたしは会社員時代にいろんな人を取材しました。
役人、商店主、経営者、会社員、スポーツ選手、政治家、警察官、弁護士、検察官、被告人(暴力団組員)、患者、障害者…。
もちろん、「ケースバイケース」というのは前提ですが、総じて医師の方が取材をしやすいんですね。
なぜかというと、いい人が多いから。
「いい人」というのは抽象的ですが、優しくて思いやりがあって、丁寧にいろんなことを教えてくれる、そんな人が多いんです。実に。驚くほど。
わたしは医療を取材する前までは医師に対して「世間知らず」だとか「傲慢」だとかいったネガティブなイメージを少なからず持っていて、それはメディアやテレビドラマ、政治家の発言などに起因しているように思うんですが、全くそんなことはありませんでした。
やっぱり顔を突き合わせてみないとわからないものです。
記者やライターと同じように、医師もいろんな人と会って話す職業ですよね。1日に会う人数でいうと、記者やライターよりも圧倒的に多いわけで。
やっぱり人に慣れているといいますか、基本的に取材にもウェルカムな姿勢で、警戒されることはほとんどありません。
人の尊敬を得やすい仕事をしていて、経済的にも余裕があるからでしょうか。大らかな人が多いんです。
忙しい若手の勤務医だとまた印象は変わるのかもしれませんが、勤務医としてキャリアの長い人や開業医は特に、包容力があって優しい人が多い印象があります。
医師の回答は易しく、かつスピーディーなことが多い
勉強ができるからといって頭がいいわけではありませんが、勉強ができる人の中に頭のいい人は多いとわたしは考えています。
勉強のできる医師の中にはやはり頭の回転の速い人が少なくはなくて、こちらが質問をしても「う~ん…」と考え込むことはほとんどありません。
考えながらもそのときどきで答えをスピーディーに出してくれるので、会話がテンポよく進むことが多い。必然的にライターとして得られる情報量も多くなるのでこれはとてもありがたいことです。
一方で、「医師の言葉は難しそう」と思う人もいるかもしれませんが、これも多くの場合に問題はありません。今は患者にわかりやすく伝えることを心がけている医師が多いですから、ライターの説明も同様にかみ砕いて話してくれることが多いんですね。
準備の大切さがわかる
「取材しやすい人が多い」とはいっても、医療取材に予習は必須です。
専門用語の多い世界ですから、取材テーマに関わる用語や医療における特定の分野の仕組みについては最低限、事前に意味や内容を知っておく必要があります。
その分、取材の基礎が身につきやすいのでこれもメリットだと言えるでしょう。
「取材はちゃんと予習をして、相手に失礼がないように臨むもの」という感覚が早い段階で身につけば、以降の取材がとても楽になりますよ。
わたしは会社員記者としてデスクからガンガンに怒られて育ってきたので、「取材でネタを取れなければヤバイ…」という切迫感がありますが、ライターの多くは会社員記者を経験していませんから、「面白いネタを取ることが記者・ライターの仕事」という考えを持ちづらいかもしれません。
予備知識がどれくらいあるかで取材の質は変わるので、予習の大切さ、ライターとしての勤勉さを養う上でも医療取材はお勧めです。
わかりやすく書く技術が身につく
「難しいもの」と思われやすい分野であるからこそ、医療記事はわかりやすく書くことが求められます。
「果たして多くの人はこの言葉の意味がわかるだろうか」と想像し、わからないだろうと思ったらその意味を補足してあげて、それでいて文章が滑らかになるように整える。
たとえば、「耐性菌」という言葉が記事にいきなり現われてもなんのことかわからない人が多いでしょう。
耐性菌というのは抗生剤(抗菌薬)が効かない細菌のことで、抗生剤を服用しすぎることなどによって生まれてしまうと考えられています。
こういったことを専門用語の前後に書いてあげることで読者がスムーズに理解できるようにしてあげるわけです。
抗生剤の安易な処方は現在、世界的な医療の問題の一つになっています。
ほとんどの風邪は抗生剤が効かないウイルス由来のものなので有効ではないわけですが、「風邪のときは抗生剤をもらったら安心」と誤った認識を持つ患者が少なくないそう。
抗生剤の服用を重ねることで耐性菌が生まれてしまい、本当に抗生剤が必要な肺炎や中耳炎などにかかった場合に治療が難航する可能性が高まるといいます。
必要があればこういった背景も載せてあげるとより親切ですよね。
ライターとしての倫理観・責任感が身につく
医療分野の記事を書くということは、病気によって苦しんだり悩んだりする人が読む可能性のある記事を書くということです。
「もしかしたら自分の記事が、苦しみ悩む人たちをさらに苦しめ、悩みをより深いものにしてしまうかもしれない」
こんな視点を持つ必要があるのではないでしょうか。
実際、万人にポジティブな影響を与えることは非常に難しくて、何らかの情報を書けば読み手の人生、価値観、考え、状況によってネガティブな心情を覚えさせてしまう可能性は十分にあります。
しかしながら、書く前や書いている際に「これを書いていいのか」「こんなふうに書いていいのか」と考えながら書くこと、ときに迷い、手を止めて考えることはとても大切。
そうすることによって記事の可能性が開けることもあると思いますし、またライターとして「確かにこんなネガティブな影響を与えることは考えられる。でも、これは伝えたいことだ、伝えなくてはならないと思う」と腹をくくれることもあります。
医療分野は書くことは、ライターとしての倫理観・責任感を培う上でも有効でしょう。
人の役に立っている想像をしやすい
これも医療取材の大きな魅力ですね。
たとえば、有名人の浮気や不倫を暴く記事を書いたところで、誰にも実利はありませんよね。
その人が凋落することで相対的に市場価値が上がる人の中には「あの記事が世に出て良かった」などと思う人がいるかもしれませんが、こういった記事の存在価値は暇な人の下種な好奇心を刺激するくらいのものだとわたしは考えています。
健康を維持したり、病気の悪化を防いだりするために必要な医療の情報は人に求められやすいテーマなので、ライターとしても自己肯定感を持ちやすいのではないでしょうか。
記者やライターは「信じること」が大切だと思います。
多くの場合に自分の書いた記事の影響をリアルに知ることはできませんから、「自分の記事がきっと、いつか、どこかの誰かに役に立つはずだ」と信じることが、記者やライターのモチベーションを支えるのではないでしょうか。
その意味で、医療は記者やライターとしての自分を支えやすい分野だと思います。
書ける媒体が意外と豊富
- 一般向け雑誌
- 一般向け専門誌
- 医療者向け専門誌
- 医療機関や製薬企業が発行する広報誌
- ウェブメディア
- 医療系企業が運営するオウンドメディア
- 医療機関のホームページ
わたしも独立してからわかったことですが、医療分野は書ける媒体が意外と豊富です。わたしが今まで書いてきた媒体は上の通りで、書ける媒体が多いということは、営業先が多いということ。
いくら興味のある分野があったとしても、媒体が少なければ初心者が入り込む余地は狭くなりますよね。
わたしの場合、医療取材の経験がないと成約しなかっただろうと思うクライアントはいますが、医療取材が初めての人でもOKな企業も複数ありました。
そもそもわたしは独立するまで医師への取材はほぼ未経験だったので、そんな人でも開拓できるわけです。
最初は原稿料が低いかもしれませんが、経験を増やしてブログで実績をアピールしていけば原稿料を上げることは可能。
特にポイントなのは、雑誌やウェブメディア以外に「広報誌」「オウンドメディア」「ホームページ」の3ジャンルの案件を獲得できる可能性があること。
これらは雑誌やウェブメディアよりも原稿料が高いことがあるので、ライターとしての経済的な安定感を高めていくうえでも有効です。
さて、ここまで系統立てて解説しました。
「難しそうだと他の編集者に敬遠されるんだけど、実際はそんなことないんだよね。いい人多いしさ」
ある編集者もわたしと同じことを言っていました。
医療に関心を持つライターやライター志望者が増えるとうれしいです。
フリーライター庄部でした。
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