「ライターはトークスキルが高くないといけないのか」「コミュニケーション力が高い人がやっぱり求められるんだよね?」
取材ライターに興味がある人の中にはこんな疑問を持つ人が少なくないのではないでしょうか。取材を始めて間もない人の中には、自分の会話があまりに拙いと落ち込んでいる人もいるかもしれません。
「でも、大丈夫」とわたしは言いたい。
取材ライターは相手と1対1で1時間から2時間ほど会話をし続けるのが仕事の一つですが、自分自身が流ちょうに話したり、面白いことを話したりする必要性は高くはなく、「ない」と言っても過言ではありません。
大切なのは表層ではなく、深層です。
相手の話を心の底から面白がり、不思議がること。取材の間はその人を愛そうと努めること。
そんな心的状態であれば、意外にもうまく話せないものなのです。自分の取材を500回聞いてわかった事実をフリーライターのショウブ(@freemediwriter)が伝えます。
独立後の取材音源を全て活字に起こしてみると…
わたしは2016年3月に独立してから全ての取材を録音し、その音源を全て自分で活字に起こしてきました。
会社員としてタウン誌と新聞社の記者をしていた時は文字数の制約を受ける紙媒体という特性上、録音することはほとんどありませんでしたが、独立してからは書く量が飛躍的に増えたため、音源を起こした方が仕事が進みやすかったのです。
それに、音源を起こした方が細かな言い回しやニュアンスも把握できるので、特に一人称の記事を書く際は精度が上がります。
- 一人称…話し手や書き手が自分自身を指す語。「わたし」「わたしたち」など。
- 三人称…話し手や聞き手以外の人や物を指す語。「彼」「彼女」「あれ」「それ」など。
一人称記事は「わたしは~した」、三人称記事は「Aさんは~した」と表現される。このブログ記事は一人称記事。ニュース記事は三人称記事。
三人称記事の方が地の文と会話文の使い分けなど考えることが多いため、一人称記事よりも難易度が高く、時間がかかる。
一方で一人称記事は相手になり代わって書くため、その人(取材先)らしさをいかに出せるかが問われる。
わたしの考えですが同意見のライターは少なくないでしょう。
2019年8月14日現在までの取材本数は約530本。厳密に言うと、取材した人数は医師と歯科医師がちょうど510人で、この中で複数回にわたって取材している人もいるので取材の延べ本数としてはこれくらいになるだろうと思います。
自分の取材を聞いていて、「お、オレの声いいね。聞きやすいじゃん」「お、会話がテンポよく進んでるね」と自画自賛することも正直ありましたが、中には言葉がつっかえていたり、たどたどしかったりすることもあって。
「ちょっと」「こう」「何か」「えっと…」などと質問の前に余計ともいえる言葉が入っていたり、質問の内容が抽象的だったり。
そんな取材を起こしているときはパソコンを打ちながら心の中で「要らんわ、それ」と過去の自分に不平を漏らすのが常だったんですが、最近になって気づきました。
あれ? 自分がうまく話せてない取材ほど面白かった取材じゃない? 取材先や編集者に記事を評価してもらえたやつじゃない?
衝撃を受けて感動すると、とっさに言葉は出ないもの
そうなんです。
面白かった取材ほど、うまく話せていない。
なぜだろう? と考えてみれば、それは自然な理由でした。
相手の話に驚いたり、感動したりしていたから。
自分の予期していない言葉や考えに出合うことで面食らい、一瞬、絶句していたわけです。
その時は「えっ」とか「はあ」とかいった感動詞や、「すごい」とか「本当ですか」とかいった簡単な言葉しか口から出ていなかったんですね。
その間に質問を考えて何とかひねり出しているわけですが、やはり未知との遭遇によって瞬間、おそらくコンマ1秒くらいだと思われますが、放心状態になり、そのあとに大きな感動が波のように心の中に押しせていたのです。
だから言葉がたどたどしかったり、つっかえたりしていた。
新鮮な野菜がおいしいように、取材も素材が命
取材を終えて普段の心の状態で音源を聞いていると、「うまく話せていない自分」が際立ち、気になるものですが、そういった取材ほどむしろ取材先が前のめりで話してくれていたり、にこにこと笑いながら話してくれていたりするんですよね。
これはやはり、取材先が喜んでくれているからなのではないか、とわたしは推察します。
多くの人は、自分に興味を持ってもらえるとうれしいもの。
12年の記者・ライター歴を踏まえてわたしはそう考えていて、ライターに驚きや感動の表情が浮かんでいると、「自分に興味を持ってくれているな」と相手は想像しやすいのではないでしょうか。
「すごいですね」「初めて聞きました」「いや素晴らしい」などと驚きや感動を言葉で表し、上体をのけぞったり前のめりにしたり、ときにあごに手を当てて首をひねって考え込んだりしてその感情を体と動きでも伝える。
その間に頭をフル回転させて、相手の発言に連なる質問を投げかける。
そうすれば、「そうそう、そうなんだよ」「いやいや、それは違う。つまりね」と相手もさらにノッてくれます。
取材ライターは取材が命。
新鮮な野菜が調理しなくてもおいしいように、取材でいい素材が手に入れば、ちょっと見栄えを整えるだけで素晴らしい記事に仕上がるとわたしは考えます。
結果、取材先や編集者から評価され、引いては読者からも読まれるものになると思うのです。
「面白がる」「不思議がる」「感動する」ことが最も大事
取材では面白がること、不思議がること、感動することが最も大切です。
ライターは聞くのが仕事であり、話すのが仕事ではありません。
ちょっと言葉がたどたどしい。つっかえてしまう。でもその瞳はらんらんと輝いていて、身振り手振りで感動を伝えようとしてくれる。
わたしが逆の立場であれば、そんなライターを好ましく思うだろうなと想像します。
「まずはこのことについて聞かせてください」「はい、わかりました。ありがとうございます」「それでは次に、このことに関しては――」
などといった機械的な取材では相手は「自分に興味がないのかな」と冷めてしまう恐れがありますし、「ちゃんと理解してくれているのかな」と不安になってしまうのではないでしょうか。
貴重な時間をわたしのために割いてくれて、面白い話をたくさん聞かせてくれる。
そのお礼を言葉だけではなく、自分の取材ぶりで相手に示したいとわたしは考えていて、取材先が不要な不安や疑問を感じないで済むようにしたい。
わたしに話すことで気持ちよくなってもらえる、「ああ、いい時間を過ごせたな」と思ってもらえる、そんな取材をしたいと常に思っています。
フリーライターの庄部でした。
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