できる限り文章の表記ミスや校閲漏れを減らしたい
文章を日常的に書く人、とりわけ記者やライター、編集者などライティングを生業にしている人はこんな課題感を持っているのではないでしょうか。
今回は、そういった人に参考にしてほしい本をフリーライターのショウブ(@freemediwriter)が紹介します。
毎日新聞社の校閲記者である岩佐義樹さんの著書『毎日新聞・校閲グループのミスがなくなるすごい文章術』です。
わたしは記者・ライターとして13年のキャリアがありますが、知らないことがたくさん書かれていて、面白く読めました。
一方、この手の本の紹介では「文章を書く全ての人に(お勧め)」などのフレーズが定型のように使われるものの、ちょっとこの本は読む人を選ぶのではないかとも。
「文章術」のイメージを持って読みだすと、「あれ」と思う人が少なからずいるだろうと思うからで、「校閲記者」とはどんな仕事をする人か、といったことから同著の特徴を紹介し、どんな人であれば面白く感じやすいかわたしの考えも書きます。
また、記事の後半にはこの本を読んで参考になった内容を列記していくので、それらをざっと読み、面白く感じたら本を通しで読むといいかもしれません。
「校閲記者」とは
多くの人は、「校閲記者」と聞いてもその仕事についてピンと来ないのではないでしょうか。
「校閲」は文章をチェックする人だと思うけど、でも後ろに「記者」とある。記者は取材をして記事を書く人だよね。どういうこと?
こう疑問を感じる人もいるのではないかと思いますが、一般の人が「校閲記者」を理解する場合、特に後ろの「記者」を意識する必要はなく、シンプルに「記者が書いた文章を校閲する人」と認識しておけば問題ありません。
校閲
文書や原稿などの誤りや不備な点を調べ、検討し、訂正したり校正したりすること。――『デジタル大辞泉』
新聞業界は昔から、取材する人だけでなく、校閲をしたり見出しを付けたりする人のことも「校閲記者」「整理記者」のように、後ろに「記者」と付けるのが慣例なんですね。
毎日新聞校閲センターが運営する、日本語に関する情報サイト「毎日ことば」によると、毎日新聞の場合は下の流れで紙面やウェブに掲載される記事が出来上がるといいます。
- 取材記者が記事を書く
- デスクが取材記者の文章を修正する
- 校閲記者が校閲する
- 東京・大阪・西部各本社の整理部が見出しをつける
校閲記者が具体的に文章の何をチェックするかというと、それは主に下のことです。
- 誤字脱字がないか
- 漢字と平仮名の使い分けが適切か
- 使われている漢字が適切か
- 使われている慣用句が適切か
- 事実関係に誤りがないか
「文章術」ではなく「校閲術」
ですので、この本に書かれている内容は広義で言えば「文章術」ですが、読者の実感で言えば「校閲術」でしょう。
「文章術」と聞くと、「読みやすくわかりやすい文章を書くためのノウハウ」などを連想する人が多いと思うためです。
あるベテラン校閲記者が感じる校閲のポイント、つまり、文章を書く人はどんな点を誤りやすいかが書かれているわけですね。
どんな人だと面白く感じやすいか
- 表記ミスをなくしたい人
- 言葉について深く学びたい人
著者ご本人は「ごく普通の人が普通の文章を書くときに気を付けてほしい点を挙げた」と本に書いていますが、わたしは「ちょっと専門的で枝葉の要素が多い」と感じました。
まず、読みやすくわかりやすい文章の書き方を体系的に学びたい人が一冊目に読むものとしては違うものを選んだ方がいいでしょう。
文章の基礎を学んだ上で、さらに知識や技術を高めたい意欲のある人が3、4冊目に読むと面白く感じやすいのでは。
一方、文章を書くことを仕事にしていない人でも、「日本語」「文章」「言葉」「漢字」についてとても興味があり、好奇心を刺激したい人にはお勧めです。
この本を読むメリット
わたしがこの本を読むメリットをあえて一つに絞って挙げるとすれば、それは校閲のプロの思考・調査を追体験できることです。
校閲記者が文章を読むに当たってどんなことを考え、またどんな資料を当たって裏を取っているかを知ることができます。
複数の辞書、常用漢字表、動詞活用表、内閣告示、国語に関する世論調査…。
これらを確認し、時代の変化も加味しながら「果たしてこの表現でいいのか?」と頭をひねりつつ、自分なりの結論を出す――。
筆者の仕事ぶりを思い描くことができるので、読了後にプロの技を駆使できるようになる可能性があります。
これが大きい。
本の中には参考になる「結論」がたくさん書かれていますが、大事なのはその結論を導き出した「過程」を学び、将来的に読者が応用できるようになることではないでしょうか。
さて、わたしの感想はここまでにして、ここからは
- 筆者がこの本に込めた思い
- 言葉の扱い方に関する筆者の考えの一部
- ライター庄部が面白いと感じた内容
この3点を書きます。何か感じるものがあった人は本を読んでみてください。②と③はSNSに投稿した文章をリライトしたものなので、文体は「筆者がこう言っていますよ」という三人称になっています。
岩佐義樹さんの思い(抜粋)
タイトルにあえて「文章術」を掲げました。私自身は一介の校閲記者に過ぎず、こんな大それた題名の本を書く資格などないことは自覚しています。
しかし日夜、他人の書いた文章に取り組んでいる仕事柄、どういう言葉が誤りやすく、どういう文章がわかりにくいかという経験則は持っています。
だれのどんな短文であれ、読んでもらうために言葉を使う以上、読者の視点を持つ校閲とは無関係ではありません。
だから本書は、すごい文章を書くためのテクニックを述べたものではなく、ごく普通の人が普通の文章を書くときに気を付けてほしい点を挙げたものです。
ちなみに「すごい」という言葉は、昔は「ぞっとするほど恐ろしい」という意味でした。
時間とともに意味や使い方が変わっていくのは日本語の宿命です。しかし、何の気なしに書いていた言葉が、読み手にとって全く別の意味で受け取られることが多いということを、書き手は「すごい=恐ろしい」と思ってほしい。
気軽に発信した文章が、大量に拡散される可能性がある時代だからこそ、自分の文を読み返し言葉を磨いてほしい。
岩佐義樹さんのプロフィール
毎日新聞社 用語委員会用語幹事。1963年、広島県呉市生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、1987年、毎日新聞社に校閲記者として入社。
2008年から毎日新聞月曜朝刊に「週刊漢字 読めますか?」を連載するとともに、毎日新聞・校閲グループが運営するウェブサイト「毎日ことば」でも漢字の読みを問うクイズを出題中。同サイトや毎日新聞で言葉に関するコラムを随時掲載。
また、2011年から始まった毎日新聞校閲グループのTwitterでは、漢字の読み方クイズ、新聞の日本語や言葉に関するあれこれ、過去のその日のニュースなどがつぶやかれている。新聞記事の制作過程における、実際に校閲記者が入れた赤字(誤り)の解説も人気。
――『毎日新聞・校閲グループのミスがなくなるすごい文章術』
岩佐義樹さんの考えの一部
「国語に関する世論調査」で「本来」とされていても、それが現代の使い方として正しいといっているわけではない、と筆者は話す。また、数字が圧倒的だからといって、それが正しいともいえないと。
「要は独善的にならない程度に自分で考え、辞書などで調べて、使用すべきかどうかを考えてほしい」
問題になっている言葉を使うかどうかの対処法は
①読者の年齢層を考える
不特定多数なら高めに設定し、新しい用法は避けた方が無難。
②誤解を招くかどうか予想する
両様の解釈が想定されるなら「本来」の使い方を選んだ方がよい。適切な言い換えができるなら、別の言葉で。
③あえて使うなら反発も想定して理論武装する
可能なら「この言葉は本来別の意味だったが」などと断って使うと誤解を招かない。
「そもそもの前提として、何が問題になる言葉なのかを知っておくことが必要」
ライター庄部が面白いと感じた内容の一覧
この本は以下の構成で作られています。各章の中で面白いと感じたものをまとめ、要約しました。
- 第1章「つながりの悪い文章」
- 第2章「たまには文法的に考えよう!」
- 第3章「細かい決まりも通じやすさのため」
- 第4章「文化庁『国語に関する世論調査』の慣用句にみる誤解」
- 第5章「固有名詞の誤りはこうして防ぐ」
第1章「つながりの悪い文章」
「新年あけまして」は正しいか
「夜が明ける」「梅雨明け」などから「明ける」は「終わる」の意。よって、「『新年あけまして』の『新年』は不要」という考えが一般的だという。
一方、一部に「その言い方も間違ってはいない」とする説もある。
例えば『明鏡国語辞典』では、「明ける」は「夜が明ける/朝が明ける」「旧年が明ける/新年が明ける」のように、古いものと新しいものの両方を主語にとる、同種の言い方に「水が沸く/湯が沸く」などがある、と説明。
この主張に対して筆者は「なるほど」と反応しつつも首をかしげる。
まず、『朝が明ける』という言い方に疑問を示し、青空文庫では2件しかヒットしなかったと報告。
さらに、『水が沸く』について「論理的には正しくても実際は無理がある使い方」と言い、「誤用とは言わないまでも、わざわざあまり使わない例を持ってきて、話をややこしくしているのではないだろうか」とまとめた。
「『新年あけましておめでとう』は単に『あけましておめでとう』でよいし、『新年が明けた』は単に『年が明けた』と書けばよい」
「〜たり」は単純に繰り返せばいいものではない
「テレビを見たり、音楽を聞いたりした」のように、「〜たり」は繰り返すのが基本。
ただし、挿入箇所に注意しないといけない場合があると筆者は話す。
例1:「土砂に巻き込まれたり、水害のため損壊した家屋」を直す場合。
「土砂に巻き込まれたり、水害のため損壊したりした家屋」
これは不正解。「土砂に巻き込まれること」と「水害」がセットで、ともに「損壊した家屋」に続けるべきだから。
正しくは、「土砂に巻き込まれたり、水害に見舞われたりして損壊した家屋」
例2
×「医薬品・医療機器の承認されていない効果・効能を調べたり、広告に用いる目的で行われたりする臨床試験」
◯「承認されていない効果・効能を調べたり、広告に用いたりする目的で行われる臨床試験」
「効果・効能を調べる目的」と「広告に用いる目的」が並列で、「臨床試験」につながる文脈。
不適切な敬語「ご発言される」
「天皇陛下が国民に向けてご発言されたことを重く受け止めている」という毎日新聞の記事に、「それは誤用」と言語学者の遠藤織枝・元文教大学教授から「厳しいメール」をもらったことがあるという。
どんな内容だったか。
「ご発言される」式の敬語は「ご訪問される」「ご決意される」のように最近よく見かけるが、「お/ご…する」は、「(私が)先生の荷物をお持ちする・社長をご案内する」など、謙譲語の基本形。
なので、「ご発言する」は私が誰かを立てるために発言するという謙譲語であり、(天皇陛下が主語のこれは)誤用。
こうした誤用が新聞上に繰り返されると教育現場は混乱する。現場では、動詞の尊敬形は「お/ご…になる」、謙譲形は「お/ご…する」と教えている。
筆者は「『発言された』か『ご発言をされた』とすべきでした、と謝るしかありませんでした」。
間違えやすい言葉
- 「貯金を切り崩す」×「貯金を取り崩す」◯
- 「居並ぶ」は「立ち並ぶ」ではない
1、「切り崩す」…①切り取って形を壊す②相手側の団結を乱してその力を弱める
「切り崩す」を使うとすれば、「反対派を切り崩す」など。
「取り崩す」…①崩して取り去る②まとまったものから少しずつ取る
②の用法として、「貯金を取り崩す」がある。
2、「居並ぶ」には「座る」意味が含まれるので、立って並んでいる様子を表すときに「居並ぶ」は適切ではないという。「私も最近まで知りませんでした」と筆者。
「居住まいを正す」も座っているときの姿勢を正すという意味。
ただし、「居」には「居場所」「居残り」のように、単に「その場にいること」の意味もあるので注意が必要。
まだある誤用例
「これらも非常に多い」と筆者。
「高見の見物」×
「高みの見物」◯
「高み」の「み」は「見る」ことではなく接尾語で、「高み」は「高い所」のこと。「深み」「明るみ」と同じ用法。
「一同に介する」×
「一堂に会する」◯
「一同」は「居合わせた人全員」の意味で「社員一同」「一同、礼」などに使う。
「一堂」は「同じ建物(場所)」の意味。この場合の「会する」を「介する」と誤る可能性もあるので注意。
「喝を入れる」×
「活を入れる」◯
「肝に命じる」×
「肝に銘じる」◯
「(食料が)底を尽く」×
「底を突く」「底をつく」◯
「更正施設」「少年の更正」「会社更正法」×
「更生」◯
「うんざりするほど出てくる間違い」と筆者。「更正」は「更正登記」「国税局の更正処分」などの専門用語。
第2章「たまには文法的に考えよう!」
「魅せる」は誤り、正しくは「魅する」
「気迫のプレーで魅せた」など、「魅せる」はスポーツや芸能関係の記事でよく見られるが、文法的には誤りだという。
正しくは「魅する」で、これは辞書にも載っている言葉。
「魅する」はサ変動詞であり、活用させると、「魅せ」は未然形であり、連用形は「魅し」になる。よって過去形は「魅した」。
「しかし、『魅した』なんて『魅する』以上に違和感を与えてしまうかもしれません。思うに、スポーツ・芸能関係の『魅せた』は、『見せた』がインパクトに欠けるので、『魅』の字で目を引きたいというスポーツ新聞などから起こった用法ではないでしょうか」
一般の新聞記事としては本来の用法を大事にして「見せた」か「魅力した」に書き換えるようにしているという。
「おぼつかぬ英語」と言うと、日本語が「おぼつかない人」と思われる
「飲み過ぎて足元がおぼつかず、タクシーで帰った」「おぼつかぬ英語で何とか話しかけた」
これはともに誤りだという。
「おぼつかぬ」「おぼつかず」は、「おぼつく」という動詞があると勘違いして活用してしまっているが、「そんな言葉はない」と筆者は話す。
基本形は「おぼつかない」という形容詞であり、「おぼつかない」の「ない」は接尾語。
「『せわしない』が『せわしい』の否定形ではないのと同じで、『おぼつく』を否定しているわけではありません」
よって、冒頭の文章の正解例は、「飲み過ぎて足元がおぼつかないので、タクシーで帰った」「おぼつかない英語で何とか話しかけた」。
基本形が間違えているケースとしては、「味わう」も挙げられる。
味あう× 味わう〇
味あわせる× 味わわせる〇
「すべき」「するべき」は実は誤り
筆者によると、「べき」は文語の助動詞であり連体形。終止形は「べし」なので、「〜すべき」「〜するべき」と言い切るのは誤りだという。
一方で、「〜すべし」だと古めかしいので、新聞では基本的に『べきだ』が多用されるとのこと。「べきである」「べきです」もOK。
また、「すべき」と「するべき」のどちらを使うか迷いやすいが、文語的(書き言葉的)に正しいのは「すべき」、口語(話し言葉)とみなせば「するべき」。
これは文語の終止形が「す」、口語の終止形が「する」であるため。
「しかし、『べき』は文語ですので、『す』も文語法にのっとり『すべき』とした方が自然なつながりとは言えそう」
知ってた?「さ入れ言葉」
「ら抜き言葉」に準じて言われるようになったと思われる、比較的新しい言葉。
「新しい言葉や用法を積極的に取り上げる」という『三省堂国語辞典』では、2008年発行版から「必要のない『さ』を入れて言う言い方」などと掲載。
「読まさせていただく」×
「読ませていただく」◯
「作らさせてもらう」×
「作らせてもらう」◯
「帰らさせていただきます」×
「帰らせていただきます」◯
「言わなさそうだ」×
「言わなそうだ」◯
「高齢な人」の「問題な」つながり
「高齢な」という文言は新聞社のニュースサイトを含めてネット上でよく見られるが、文法的には本来のつながりではないという。
つなげ方の原則は
- 形容動詞+「な」→「難解な内容」
- 名詞+「の」+名詞→「ニュースの時間」
「高齢」は名詞なので、「高齢の人」が本来のあり方。
「『都会な人』『ニュースな女』などとメディアで表現されることがあるが、これらはあえて標準的な用法からずらして目を引くことを狙っているのだろう」と筆者。
一方で、形容動詞と名詞はかっちり区分しにくいものが多いという。
「形容動詞は学校で習いますが、形容動詞という品詞そのものを認めない立場もあります。『名詞の変形』とする立場です」
『日本語解釈活用辞典』には、「『美人』はあくまで名詞だが、『彼女ほど美人な人はいない』となるとよほど形容動詞に近い」とあるとのこと。
よって、筆者は「『高齢な人』が文法的に絶対に間違いと主張するつもりはありません」としつつ、「『高齢の人』や『高齢者』なら問題がない文脈で、『高齢な人』と書くと問題視する人が一定程度いることを覚悟しておいた方がいい」と締めた。
まだまだある誤用例(一部第4章)
「すごい多い」×
「すごく多い」◯
「オーダーを忘れるはビールをこぼすは」×
「オーダーを忘れるわビールをこぼすわ」◯
このときの「わ」は、女性のセリフに多かった「いいわ」「いけないわ」と同じという。
「願わくば」×
「願わくは」◯
「上や下への大騒ぎ」×
「上へ下への大騒ぎ」×
「上を下への大騒ぎ」◯
「この慣用句は『大混乱』という意味を『上の物が下に、下の物が上になる』という表現で示したもの。本来の状況を思い浮かべると間違いを減らせるのではないでしょうか」
「いやがおうにも」×
「いやがうえにも」◯
第3章「細かい決まりも通じやすさのため」
よく見られる言葉の重複「馬から落馬式表現」
- 「まだ未定」→「未定」「まだ決まっていない」
- 「満天の星空」→「満天の空」(天と空の重複)
- 「ハイテク技術」→「ハイテク」(ハイテクと技術の重複)
- 「製薬メーカー」→「製薬会社」(製とメーカーの重複)
- 「従来から」→「従来」「以前から」
- 「一番最初」→「最初」
- 「各国ごとに」→「国ごとに」「各国で」
「アンケート調査」をダブりとする見解もあるというが、『明鏡国語辞典』によると、「アンケート調査」「リゾート地」は、外来語になじみのある漢語や和語を添えて意味をより明確にする例だという。
「外来語はなるべく原音に近い表記で」
筆者によると、特に濁音の誤りが目につくという。
- ベット→ベッド
- ギブス→ギプス
- カピパラ→カピバラ
- アボガド→アボカド
- ベコニア→ベゴニア
- グロッキー→グロッギー(groggy)
- デットヒート→デッドヒート
- キューピット→キューピッド
- ハンドバック→ハンドバッグ
- オラウータン→オランウータン
- パーテーション→パーティション(partition)
- アタッシュケース→アタッシェケース(attache case)
- メリーゴーランド→メリーゴーラウンド(merry go round)
- エンターテイメント→エンターテインメント
「なお、『サボる』『ダブる』はサボタージュ、ダブルという外来語からきているので、ほとんど日本語化しているとはいえ、『さぼる』『だぶる』というように平仮名で書くのは感心しません」
間違えやすい送り仮名「お話しする」
「〜の話」「話が長い」など「話」が名詞の場合、送り仮名を書かないが、「これからおはなしするのは〜」などの謙譲語の場合、「お話」か「お話し」か?
正解は「お話しする」。
なぜかというと、「『お〜する』という謙譲語の間に入るのは動詞の連用形だから」と筆者。
「先生、お話して」などと幼児がせがむ場合、「お話をして」の「を」が省略された形としては「お話して」でOK。
「しかし、謙譲語の場合は『お話しする』でなければなりません。『を』がないと意味も変わってきますので、お間違えなきよう」
漢字の使い分けに迷ったときは「対応する熟語を考える」
海を「のぞむ」→「望む」「臨む」?
「海が遠くに見える」という意味では「展望」という熟語もある「望む」を使う。
「海に面する」という意味なら「臨海」の語もある「臨む」でいいが、このときは助詞が変わり「海に臨む」となる。
「このように、漢字の使い分けに迷ったら、対応する熟語を考えるとすっきり分けられる場合が少なくありません」
例を「あげる」→「上げる」「挙げる」?
「列挙する』という熟語があるので、「挙げる」。
試合に「やぶれる」→「破れる」「敗れる」?
「敗戦」の意味なので、「敗れる」。
「訓読み漢字の使い分けは、音読み熟語と対応させれば分かりやすいでしょう」
表記に迷ったときの判断基準「常用漢字表」
常用漢字表が「どちらでもいいけれど、どちらの表記を選んだ方がいいか迷ったとき、有力な判断基準になるのは間違いない」と筆者。
常用漢字表(1945字)は1981年に内閣告示として定められ、2010年に改定されて現在は2136字に。
前書きにはこうある。
「この表は、法令、公文書、新聞、雑誌、放送など、一般の社会生活において、現代の国語を書き表す場合の漢字使用の目安を示すものである」
常用漢字表はインターネットで見ることができ、株式会社ぎょうせいから書籍も発行されているという。
「ちょっと使いにくいのは、辞書ではないので、基本的に音読みがある字は音の50音順になっていること」
「恋い焦がれる」を調べるときには、「こい」ではなく「レン」のところにあるそう。
第4章「文化庁『国語に関する世論調査』の慣用句にみる誤解」
意味を間違いやすい「雨模様」
「雨が降りそうな様子」と「小雨が降ったりやんだりしている様子」のどちらか。
正解は前者だが、後者で認識している人も多いという。
2010年度「国語に関する世論調査」で前者と答えた人は43.3%、一方で本来は誤りとされる後者と答えた人はそれを上回る47.5%。
「雨が降っているのと降っていないのとではたとえ小雨でも大きな違い」と筆者は話し、「混乱の元は『模様』という言葉にある」と続ける。
天気予報で「雨になる模様」といえば未来のことだが、「空模様が怪しい」といえば現在のこと。
「模様自体に両方の使い方があるので、『雨模様』の意味が分化するのは必然的」
ではどうするか。
日本新聞協会では両様に解釈できる表現は使わず、「曇り空の下」「小雨が降る中で」などと「具体的に書く」と決めているという。
気象庁のホームページで公開されている「天気予報等で用いる予報用語」でも同じ方針とのこと。
「笑い」に関する誤りやすい表現
「噴飯もの」…「彼の発言は噴飯ものだ」
腹立たしくて仕方がない×
おかしくてたまらない〇
2012年度「国語に関する世論調査」によると、この言葉の意味を前者だと答えた人が49%、本来の意味の後者だと答えた人はそれを下回る19.7%だったという。
「失笑する」
笑いも出ないくらいあきれる×
こらえ切れず吹き出して笑う〇
2011年度の同調査では、回答者のうち60.4%が本来とは違う意味で認識していたとのこと。後者だと答えた人は27.7%。
「にやける」
「薄笑いを浮かべている」×
「なよなよとしている」〇
文化庁が本来とする意味は「なよなよ」。
多くの辞書でもそうだと筆者は言うが、『角川必携国語辞典』では、2番目の意味として「しまりのない顔で、にやにやする」としているそう。
毎日新聞の使用例では、ほとんどが2番目の意味で使われており、筆者も「『にやける』は既に『にやにや』に意味が変わっているので、その意味で使っても私は問題ないと判断しています」と話す。
第5章「固有名詞の誤りはこうして防ぐ」
間違えやすい漢字と熟語
- 「荻(おぎ)」「萩(はぎ)」
- 「郎」「朗」
- 「昴(すばる)」「昂(昂然など)」
- 「亭(料亭など)」「享(享受など)」
「鍛冶」と「鍛治」
「村の鍛冶屋さん」など一般的には「にすい」の「冶」。ただし、固有名詞では「さんずい」の「治」が使われる場合があるという。
「北海道函館市鍛治」「岩手県花巻市鍛治町」や人名の「鍛治」など。
愛媛県今治市の「治」が「冶」になっているケースも。
「似た字があるという予備知識がないと、目を凝らす気にもならないでしょう。似て非なる文字の知識は必須です」と筆者。
間違えやすい固有名詞
「常盤」ときどき「常磐」
「ときわ」。下が「皿」か「石」か。人名では前者が多いが、浄瑠璃の一流派「常磐津」は「常磐」なので、創始者や伝承者は後者。
地名も同様の傾向で、後者は少ないという。「水戸市常磐町」「静岡市葵区常磐町」など。
「多摩」ときどき「多磨」
「多摩市」「多摩川」などのように前者は頻出。ただ、「多磨」の地名もあるので注意。「東京都府中市多磨町」、北原白秋や江戸川乱歩など多くの著名人の墓がある同町の「多磨霊園」、「多摩川線」にある「多磨駅」など。
建物と所在地の名が違うケースも紛らわしいという。
デパート「新宿タカシマヤ」があるのは渋谷区、新宿駅南口のバスターミナル「バスタ新宿」も同様。
JR品川駅があるのは港区、JR目黒駅があるのは品川区。
東京都武蔵小金井市×
東京都小金井市◯
JR武蔵小金井駅があることから勘違いしやすい?
「固有名詞を間違えないようにする魔法のような簡単な方法はなく、地道に確認するより他に近道はないといえます」
記事内の情報、考え、感情は書いた時点のものです。
記事の更新情報はツイッター(@freemediwriter)でお知らせします。