「記者を経験しておいて良かった…」
2020年2月現在、フリーランスのライターとして独立して約4年が経ちますが、しみじみとそう思います。
わたしは、タウン誌と新聞の記者を計7年務めた上で独立しました。
「記者を経験した上で独立するとどんなメリットがあるのか」
今回はそんなテーマでショウブ(@freemediwriter)が5つの利点を挙げたいと思います。ご参考ください。
なお、この記事で書く「ライター」とは、取材して記事を書く「取材ライター」を意味します。
独立1年目でも仕事を取りやすい
「過去に記者をしていたのであれば、仕事を任せても大丈夫じゃないか」
独立1年目にブログ経由で問い合わせてくれた経営者がわたしに目を留めた理由について、こう話していました。
企業がライターを探すときに見る主なポイントは、専門性という観点を除くと、
- フリーランスとしての実績が豊富か
- 独立直後でも過去に取材記事を書く経験を積んでいるか
ではないでしょうか。
その後に、メールでの対応や会ったときの印象が続くのだと思います。
同じくブログを通して問い合わせてくれたウェブメディアの社員が、問い合わせた理由にわたしの経歴を挙げていたことからも、会社員時代に記者をすることは独立間もないライターにとって、仕事が取りやすくなる要因になると言えるでしょう。
取材スキルが高まる
記者を経験しておくことが企業の安心材料になるというのはつまり、先方が「この人は相応の取材スキルがあるだろう」と考えることを意味しています。
実際に、程度の差こそあれ、記者を経験しておくことでそれは高まります。
わたしが言う「取材スキル」とは、「予定された時間内で必要かつ魅力的な情報を引き出し、取材対象者に『取材を受けて良かったな、楽しかったな』と思ってもらう技術」を意味します。
記者経験を積むことでこれらのスキル、特に前半の部分については高まるんですね。
なぜかと言うと、自分の記事が非常に厳しくチェックされるからです。
出版社や新聞社には通常、記者の記事を読み、紙面に掲載する形に整える「デスク」というポジションの人がいます。
新聞社では、記者を経験した後、およそ40歳前後でデスクになるわけですが、わたしたちが目にする新聞記事は記者の書いたものがそのまま載ることは少なく、多くの場合にデスクが手を入れています。
ほとんどデスクが書き直した記事もあります。
記事を読んだデスクは記者にいろんな質問を投げかけます。
「これはどういう意味?」「これは聞いた?」「え、なんで聞いてないの? 大事なとこでしょ」「早く聞いてきて」
記者からすれば、ときにあっさり、ときにねちねちとしつこく自分の書いた記事について聞かれるわけですね。
当時のわたしは毎日、こうした“詰め”にびくびくしていたわけですが、この経験はフリーとしての自分にすごく生きています。
デスクから質問された経験が体に染みついているので、記事を書くときに必要な情報を取材中にイメージできるようになるんですね。
取材相手の返答に対して新たな疑問が生まれるまでのスピードも上がるので、結果的に取材のテンポも良くなりやすい。
もちろん、記者経験がなくても優秀でユニークなフリーライターはいます。
しかしながら、独立してから出会った複数の編集者や経営者によると、「記者経験者の方がスキルが高いことが多い」そう。
あくまでも傾向性の話ですが、わたし自身もそう思います。
ライティングスキルが高まる
ライティングスキルが高まりやすいことも言えます。
ちゃんと文章を見られる人に添削してもらうことを繰り返していけば、人によってスピードと程度は違うにしても文章はうまくなります。
先述のように出版社や新聞社には厳しいデスクがいて、自分の記事がどんな風に修正されたかを毎日見るわけですから、少しずつ自分の文章を客観視できるようになるんですね。
中でも「文章の読みやすさを身につけるのに適した会社」という点で言うと、新聞社は筆頭に挙げられるでしょう。
新聞は「小学生が読んでもわかる文章」をテーマに掲げていて、紙幅が限られる中でいかにして内容をうまく伝えるかに腐心しているからです。
「読みやすくてわかりやすい文章」を書くための練習を効率的に重ねられるわけですね。
余談ですが、タウン紙の記者時代に作家の川上弘美さんと高橋源一郎さんの講演会を取材したことがあって、その中で川上さんは「いざ書くにしても最初は文章の書き方がわからなかった。新聞を参考にしながら書く練習をした」と話していました。
フリーライターはスキルを上げづらい
会社で記者を経験しておいて良かったと思うのは、今まで話したように取材とライティングのスキルを高められたからですが、その一方で、フリーライターだとなかなかスキルを上げづらいこともその理由に挙げられます。
前提として、企業からすれば外部の人間を手間暇かけて育てる必要はないですよね。
企業の中には「フリーランスを育てよう」という意識のある稀有な会社もあって、わたしが過去に仕事をしていたクライアントにもいましたが、その存在を期待しない方がいい。多くの企業は即戦力を求めます。
実際にわたしの場合、フリーになってから厳しい指摘や意見を受けたことはほぼありません。
わたしはマーケティングを兼ねてクライアントに自分の仕事ぶりを尋ねるようにしていますが、やはり基本的には自分で内省するしかないんです。
そんなときに記者経験があると、過去に受けた数々のデスクの指摘を思い出せますから、取材の内容や書いた文章に対してどこが良くてそうではなかったか、自分なりの“当たり”をつけられるわけです。
こうしたイマジネーションが働くかどうかはとても大きなことだと思います。
“組織人”の倫理観が養われる
これも非常に大切なことだと思います。
- メールへの返信をなるべく早くする
- 相手の立場を考えながら話を聞き、意見を伝える
- 締め切りを守る
これらはクライアントと長く仕事をしていくためには欠かせないことでしょう。
フリーライターのクライアントは多くの場合に会社員です。その会社員は周囲との関係性の中で自分があります。上への目、下からの目、クライアントに対する立ち位置。自分の役割。
たとえばメールの返信について、わたしは先約が入っていて依頼を断らないといけないときは一層、即レスを心がけています。
そうしないと編集者や手配役の人の次のアクションが遅くなってしまい、全体の進行に影響しかねないからです。
考えればわかることですが、組織人を経験しているとこのあたりのことをよりリアルに想像できるのではないでしょうか。
返信が早いだけで仕事が取りやすくなった経験もあります。
興味のある分野を見つけられる
これもかなり大きかったですね。
会社員時代に「これだ!」と思う取材分野を見つけられたことで、わたしはフリーライターとしていいスタートを切ることができました。
好き嫌いがはっきりしているわたしにとっては特にそうだったと思います。
タウン紙時代にも取材の幅は広かったんですが、正直に言うと、ハマるものはありませんでした。
ただ、取材をするという行為、記事を書くという行為、取材相手や読者から「ありがとう」と言われることが好きで、新聞社に入りました。
その後、新聞記者として働く中で難病の患者たちと出会い、ガツン! と衝撃を受け、医療取材が好きになっていったのです。
独立してから約4年間、ほぼ医療に関する取材しかしていませんが、まだ飽きていません。
わたしの場合、自分がどんなことに興味を持つか、または持ち続けられそうかは、取材して記事を書いてみないとわかりませんでした。
なぜなら、取材する業界の特徴、取材対象者の人間的な傾向、事前準備の量、取材するスタイル、書く文体の傾向などはある程度その分野を取材しないと見えてこなかったからです。
これらを把握し体感することで、よりその分野の取材が好きになることもあれば、好きそうだと思っていたのに実際はそうならなかった、ということもありそうですよね。
もちろん、独立してからいろいろな取材をして、その中で自分の方向性を見つけていくのもアリだと思います。
しかしながら、会社員記者としてお金をもらいながら「これだ!」を見つけて独立、の方がいろんな意味で楽なのではないでしょうか。
まとめ
まとめると、会社員記者を経験しておくことで、
- 取材とライティングのスキルが高まり
- 自分の興味のある分野が見つかりやすくなり
- 組織人の倫理観が身につく
その結果、
わたしの場合は独立1年目でも仕事を取りやすくなりました。
一つのケースとして参考にしてみてください。
フリーライターの庄部でした。
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