「ライターの人ってテープ起こしがめんどそう」「テープ起こしが手間だからもっと時短できないものか」
ライター業界で「ムダ」の筆頭に挙げられがちなテープ起こしですが、わたしはこの2文字で終わらせてしまうのはもったいないと考えており、テープ起こしにも複数のメリットがあると感じています。
少なくとも、自分の取材音源を100本はテキストに起こしてみると、ライターとしての成長につながるのではないでしょうか。
わたしは2016年に独立してから自分が取材したものは全て自分でテープ起こしをしていて、その数は約600になると思います。
テープ起こしは確かに時短したい作業ではありますが、いいこともけっこうあるのですよね。
取材時の反省点を振り返られるほか、自分が話すときの言葉の癖がわかったり、仕事のモチベーションが高まったり。
記者・ライター歴14年のショウブ(@freemediwriter)がテープ起こしのメリットを紹介します。
自分の声が客観的にわかる
まずはこれです。
子どものころ、家族が撮影したビデオなどを見ているときに、自分が認識している自分の声と自分の本当の声の違いに驚いたことがある人もいるのではないでしょうか。
テープ起こしをしていると自分の声が客観的にわかるので、他者が聞く自分の声の印象を考えながら取材時の声の大きさや抑揚を調整しやすくなります。
わたしは声が低いので、友人と何気ない話をしているときと同じ調子で話すと、人によっては暗い印象を与えてしまう可能性があると考えています。
なので、取材時は意識して声をちょっと高くするようにしています。
こういったことは取材音源を聞いて自分の声を把握しないと難しいでしょう。
自分が話すときの癖がわかる
これも大きなメリットです。
自分と他者の会話を聞いていると、自分では意識していない言葉の癖がわかることがあります。
たとえばわたしの場合、独立したときの癖は「まあ」「あの~」が多いことでした。
わたしは会社員で記者をしていたとき、書く文章の文字数が独立後より短かったこともあって、テープ起こしをしたことはほとんどありませんでした。
そして独立した後に自分の取材を聞いてみると、「これはちょっと修正しないとな…」と思うことがあったわけです。
「まあ」「あの~」は自分で「言おう」と思って発したものではありません。
相手にどんなことを話すか考えているとき、無音の空白が生まれないようにするために無意識で発している言葉なのだと思います。
しかし、「あの~」が多すぎると取材のリズムを崩す可能性がありますし、取材相手が頭の回転が速く(わたしが取材する医師には多いです)、また性格としてせっかちな人の場合、この言葉の多用が相手にはストレスになってしまう恐れがあります。
「まあ」にしても、人によっては上から目線に感じてしまうかもしれません。
独立当初にこのような言葉の癖を把握した結果、今では「まあ」の方は減ったのではないかなと。「あの~」に関してはもう少し減らしたいですね。
仕事のモチベーションが上がる
取材したときの楽しさが思い出されてほっこりした気分になる。
習慣的にテープ起こしをしている人の場合、上のような体験をしたことのある人も多いのではないでしょうか。
楽しかった取材の音源を聞いてくると、心がほころんできて、思わず微笑むこともあるのですよね。
わたしの場合、仕事の疲れが和らいだり、ライターの仕事の面白さが再認識されて、「よし、いい記事を書くぞ」とポジティブな考えが生まれます。
逆に、うまくいかなかった取材の音源を聞くのはあまり気が進まないのですが…。
ただ、自分では「うまくいかなかった」と思っていても、後で音源を聞いていると取材先の声のイントネーションなどから「あれ、そうでもなかったのかな」と印象が変わることもあり、書くまでに心の調子が整うこともあります。
ライターの本業であるライティングはけっこう集中力を使う仕事ですから、ずっとそれを続けるのはわたしはあまり好きではないんですよね。
適度にテープ起こしのような「考えなくて済む作業」を差し込んでいくと、ライティングの質がむしろ高まるのではないかと考えています。
他の記事素材として後で使える
単純に物理的なメリットもありますよね。
テープ起こしをして取材した内容をデジタル情報として残しておくと、後に他の記事を書くときにいろいろと使えます。
似たテーマの取材の前に読み返すことで「ああ、こういうことだったな」と記憶が蘇ったり、同じくテーマが共通している記事を書くときにその取材では聞かなかったとしても情報を追加できたり。
ブログを書くときにも、「過去に取材した医師によると~」といった形で追記して、記事の信頼性を高めることができます。
わたしの場合、医療取材の記録が600本ほどパソコンに保存されているので、この情報量と質は医療ライターとしてサバイブしていく上での財産だと考えています。
まとめ
テープ起こしは確かに手間ですよね。
わたしも時短したいなと思って複数の代行サービスを使いましたが精度が低く、今なお自ら手打ちしている状況です。
質の高いサービスがあれば必要に応じて使いたいと思っています。
とはいえ、「テープ起こしは無駄」かというと全くそんなことはなく、取材時に自分がした質問や反応が適切だったかを振り返られるほか、上に挙げたような複数のメリットがあります。
ある程度キャリアを積んだライターであれば時短したり代行してもらったりしてもいいと思うのですが、取材を始めて間もない人の場合、将来的に仕事の質を上げていくためには「やった方がいい手間」「自分への投資」になるのではないでしょうか。
フリーライターの庄部の持論でした。
楽しかった取材の音源を聞いていると、いい気持ちになりますよ。「取材って楽しいなあ」とよく思います。
ライター向け有料記事
【OK8割】「通る」取材依頼書の書き方を元新聞記者が解説【見本あり】
【ここまで出すか】取材ライターの原稿料はどれくらい? 相場を公開
地方ライターが面白い独自ネタを探す方法【元タウン誌記者の実例】
会社員ライター志望者へ

記事内の情報、考え、感情は書いた時点のものです。
記事の更新情報はツイッター(@freemediwriter)でお知らせします。