いい編集者と仕事をしたい
フリーライターの多くが抱いている思いではないでしょうか。
いい編集者と仕事をすれば仕事が楽しくなりますし、自分のスキルも伸びます。場合によっては自分のポテンシャルを編集者が引き出してくれることもあります。
「いい編集者」の要素の一つが、ライターの文章をしっかりと見られること。校正スキルが高いことだとわたしは思います。
しかしながら、ウェブメディアの増加とクラウドソーシングサービスの普及によって、「編集者」の定義や役割がなかば自律的に多様化してしまい、「編集者」と名乗る人が増えたことによって校正のできる編集者の割合が低くなったようにわたしは感じています。
そんな中で、「いい編集者だなあ」と思う人に出会いました。
プロの編集者が校正することでライターの文章はどう磨かれ、光るようになるのか。
その実例をフリーライターのショウブ(@freemediwriter)が紹介します。
わたしが編集者に送った文章と編集者が校正した文章のデータをそれぞれ添付して解説していくので、ライター志望者やライターの人はぜひ参考にしてみてください。
講談社運営の「現代ビジネス」編集者を紹介
今回紹介するのは、講談社が運営するウェブメディア「現代ビジネス」で編集者を務める丸尾宗一郎さん(リンク先はツイッターアカウント)。
丸尾さんはわたしと同じ大分県の出身で、東京大学を卒業後、2012年に講談社に入社。週刊誌「週刊現代」の記者を経て2018年6月から「現代ビジネス」の編集者をしているそうです。
編集者にはいくつかの型がありますが、丸尾さんは「取材して記事も書ける編集者」のよう。
2019年6月に彼がわたしのブログに目を留めてくれて、「医療ネタを書いてほしい」と問い合わせてくれたことで出会えたわけですが、最初にお話したときにすごく面白かったんですよね。
丸尾さんは好奇心の幅が広く、医療への興味もひしひしと感じられて、実際に医療取材の経験もある。着眼点がユニークで、互いにポンポンと記事のネタになりそうなことが飛び交う。
そんな気持ちのいい時間を過ごせて、「この人と仕事をしたら面白いことが起きそうだ」と思い、「書きます」とお答えした次第。
現代ビジネスにおける仕事の進め方
丸尾さんとは過去に2回仕事をご一緒していて、2019年9月2日現在で3本目の記事が進行している最中ですが、進め方としてはわたしがネタを提案し、丸尾さんの同意を得られれば着手するスタイル。
現代ビジネスでは各界の著名人などが各々の見識を生かしながら持論を展開する形が多いのですが、わたしは取材ライターなので、テーマに詳しい人を取材してその情報を基に書いた記事のデータを丸尾さんに送り、丸尾さんの校正後に掲載されるという流れです。
ウェブメディアだけあって掲載までが早く、今のところわたしが丸尾さんに原稿を送ってから1~2週間ほどで掲載されています。
その間に
- 丸尾さんが確認・校正
- 庄部が丸尾さんの校正を踏まえて修正
- 庄部が取材先に原稿を送り確認してもらう
- 庄部が取材先の意見も反映させた上で最終原稿を送る
- 丸尾さんがプレビュー画面を作成
- 庄部がプレビュー画面を確認しOKを出す
こんな工程があります。
編集者・丸尾さんが校正した実例
では、丸尾さんが校正した記事を紹介します。
記事のテーマは「少量飲酒」の是非を問うもので、短期間ではありますが現代ビジネスのサイト内ランキングで1位、ヤフーの雑誌ランキング総合部門で2位の結果を得ました。記事が掲載されて1ヵ月ほどでフェイスブック上では約2300人にシェアされました。
悲報…「少量飲酒は体にいい」説を否定する論文が発表されていた
まずはわたしが丸尾さんに送った文章のPDFを添付します。
続いて丸尾さんの校正を反映させた完成原稿のPDF。
具体的に丸尾さんの校正のどこがいいと感じたのか。結論から言うと、丸尾さんはわたしの弱点を補ってくれました。
わたしはタイトルとリードが弱い傾向があって、タイトルが硬かったり、リードが短くて記事の魅力を伝えきれていなかったりすることがあるんです。
タイトルとリードは記事の命であり、読者がその記事を読み続けるかどうかを左右する重要な部分。
とはわかっているものの、記事全体の読みやすさや展開の面白さなどに意識を注ぎがちなわたしはタイトルとリードへの力の入れようが弱くなってしまう、最後の踏ん張りがきかない癖があって…。改善しないといけない良くないところです。
要点をピックアップしながら解説していきますね。
タイトルのビフォーアフター
まずはタイトルのビフォーアフター。
揺らいできた「少量飲酒は体にいい」説
医師が伝える賢い飲み方
わたしが丸尾さんに送ったタイトル。
悲報…?「少量飲酒は体にいい」説を否定する論文が発表されていた…
結局「飲酒ゼロ」がいいらしい
続いて、丸尾さんが提案してくれたタイトル。
わたしは丸尾さんが提案してくれたタイトルの方が格段にいいと思うんですが、どう思われますか?
丸尾さんが提案してくれたタイトルの方がいいと思う理由を2つ挙げます。
1、テーマが端的に表されている
この記事のトピックは、「少量飲酒は体にいい」とする説を覆す論文があること、つまり少量飲酒は健康にいいとはいえないかも、という新しい視点を読者に与えることです。
しかしながらわたしはそこをちゃんと整理できなくて、どっちつかずのタイトルをつけてしまいました。
「揺らいできた『少量飲酒は体にいい』説」といきなり書かれてもピンとはきづらいですよね。「揺らいできた」という表現が抽象的で、読者に疑問を感じさせてしまいます。
タイトルで生まれた疑問を解消してもらうために本文へ誘導する手法はありますが、この場合はそれがうまくいっていません。
読者の理解が追いつかないまま、「医師が伝える賢い飲み方」と続けてしまっていて、どちらかといえば、後ろの「飲み方」に重点が置かれている。
全体的にピンボケしたタイトルになってしまっています。
読者からすれば、「賢い飲み方」よりも「少量飲酒は健康的ではないかもしれない」という新しい視点を得られる方が刺激的でしょう。
実際にヤフーに寄せられたコメントを見ても(現代ビジネスの記事はヤフーにも転載される)、飲み方に言及するものよりも少量飲酒の是非に関するコメントの方が圧倒的に多かったのです。
これはもう、読者目線をわたしが持っていなかったためで、読者は記事の何に関心を持つか、優先順位は何かが整理されていないとこんなダメなタイトルになっちゃうよという好例です。
丸尾さんのように素直に、「少量飲酒が体にいい説を覆す論文が出てましたよ」と読者にお知らせする形のタイトルにすべきでした。
2、読者目線に立つ感情が盛り込まれている
最初の「悲報…?」もポイントです。
読者にとってこの記事はどんなものか、どんな感情を催させるものかを表すワードが出だしにあることで、受け手は興味をそそられやすいでしょう。
「悲報」の後に「…?」を続けることで、人によって捉え方が違うであろうことも示唆されていて、これらの記号がさらに読者の関心を強める効果があるとわたしは考えています。
お酒を飲む人の中には「少量でもやっぱり有害なのか…」と肩を落とす人がいるであろう一方、お酒を飲まない人の中には「ほら見ろ、やっぱり害しかないよ」と喜ぶ人もいるだろうと思われるわけで。
実際、ヤフーに寄せられたコメントには双方ともにありました。
新聞や硬派なメディアではこういった主観的な言葉がタイトルに盛り込まれることは少ないわけですが、現代ビジネスは新聞のようにストレートニュースを出すメディアではなく、ストレートニュースの解釈を提示するメディアだとわたしは考えています。
「こんなものの見方がありますよ」と提案し、「一緒に考えてみてくださいね」と思考を促すオピニオンメディアだと思うので、こんな柔らかめの言葉も合うのでしょう。
サブタイトルの「結局『飲酒ゼロ』がいいらしい」の「らしい」という柔らかい表現もいい具合に作用して、全体的に読者にとって親しみやすいタイトルになっているように思います。
「ああ、こんなに素直に書いていいのね、というかシンプルにそのまま書いた方がタイトルとしてもいいじゃん」と目からウロコで新鮮に感じました。
リードのビフォーアフター
お酒は体にいいのか悪いのか。
「少し飲むのであればむしろ健康にいい」「いやいや、総じて体に悪い」
インターネットの中にある情報は玉石混交で、何を信じればいいのかわかりづらい。
そう、ぼくのように感じている人もいるのではないでしょうか。
ぼくは医療を専門に取材しているライターです。縁あってお酒に詳しい医師と出会えたので、お酒の影響の実際のところを聞いてきました。
「少量飲酒」は専門家の間でどう捉えられているのでしょうか。また、お酒で健康を損ねたくない人はどんな風に飲めばいいのでしょう。
わたしが丸尾さんに送った記事のリードです。
お酒は体にいいのか悪いのか。多くの人が関心を寄せる
大問題です。「少し飲むのであればむしろ健康にいい」「いやいや、総じて体に悪い」
インターネットの中にある情報は玉石混交で、何を信じればいいのかわか
りづららない――。そう、ぼくのように感じている人もいるのではないでしょうか。
ぼくは医療を専門に取材しているライターです。縁あってお酒に詳しい医師と出会えたので、お酒
のが健康に与える影響の実際のところを聞いてきました。特
とくに気になるのが、「少量飲酒」。「少しのお酒は体にいい」という説を聞いたことがある人もいる
があると思いますが、こうした考え方は専門家の間ではどう捉えられているのでしょうか。取材をしてみると、実はこれまでの説を脅かす衝撃の論文が発表されていることがわかりました。加えて気になるのは、なるべく健康を害さないお酒の飲み方。お酒で健康を損ねたくない人はどんな風に飲めばいいのでしょうか。
丸尾さんの校正を踏まえて修正した記事のリードです(赤字が丸尾さんの校正部分、青字はその後にわたしが手を加えた部分)。
こちらも丸尾さんが書いてくれたものの方がいいですね。
わたしが書いたリードの致命的な欠点は、「少量飲酒が健康にいいとする説を覆す論文が発表されていた」ことに触れられていないこと。つまり、読者の関心を最も引きそうだと思われることが書かれていないことです。
「『少量飲酒』は専門家の間でどう捉えられているのでしょうか」だけでは弱い。
タイトル部分の説明でも書きましたが、読者にとって何が面白いかが整理されていないために、記事の肝が書かれていない結果に陥っています。
タイトルとリードを書く上で大切なこと
- 読者の最大関心事が何かを考えること
- 読者の感情をそそる言葉がないか考えること
- シンプルに結論を書くこと(疑問を促す方がいいこともある)
タイトルとリードを書く上では、上の三つが大事になってくるのではないでしょうか。
「そもそもこの記事で読者が最も面白いと感じてくれるのは何か」
そう考えながら結論を出し、その情報をシンプルにタイトルとリードに盛り込むこと。
タイトルは文字数の制限があるので抽象的な表現になってしまう恐れがありますが、短いながらも具体的に伝えられる言い方がないかを探すこと。
そして、媒体のカラーにもよりますが、読者の感情をそそるフックとなる言葉(今回で言えば、「悲報…?」)がないかを考えることも大切。
本文の質については、丸尾さんから「リーダビリティがとても高い」「技が光っている」と評価をしてもらえたのでほっとしましたが、それよりも自分の弱点を再認識できたことがわたしとしてはでかかった。
丸尾さんがタイトルとリードの修正を提案してくれなければ、これほど読者に読まれる記事にはなっていなかったのではないでしょうか。
こんなふうに自分の弱点に気づかせてくれて、それをうまく補ってくれる編集者はライターにとって「いい編集者」だとわたしは思います。
またいい人と出会えたら、その人との仕事の実例を紹介していきますね。
フリーライターの庄部でした。
※この記事は丸尾さんの了承を得て掲載したものです。
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