賢く情報を集め、人生に生かしたい
今は文章を通して情報を得られる媒体がさまざまにあります。
ひと昔前までにその中心は新聞と雑誌、本の3つが担っていましたが、インターネットの普及・発達により、ウェブメディアやブログのほか、フェイスブックやツイッター、インスタグラムといった各種SNSも大きな媒体に成長しました。
スマートフォンによっていつでもどこでも情報を得られるようになりましたが、そうはいっても情報収集に充てられる時間は限られるのが大多数の共通点でしょう。
忙しいわたしたちが質の高い情報を得て、質の低い情報が入らないようにするためにはどうすればいいのか。媒体の優先順位は―?
ジャーナリスト・池上彰さんと作家・佐藤優さんの対談本『僕らが毎日やっている最強の読み方』(東洋経済新報社)を読めば、そのヒントがもらえます。
賢く情報を集めて、仕事やプライベート、ひいては人生全般に生かしたい全ての人に読んでほしい良書です。フリーライターのショウブ(@freemediwriter)がレビューします。
記事の主な内容は下の通り。
- この本の概要
- 2人のプロフィール
- 2人が話す賢い情報術の結論
- 参考になる情報の要約
『最強の読み方』の概要
『僕らが毎日やっている最強の読み方』は、2016年に東洋経済新報社から刊行された池上さんと佐藤さんの共著です。
本の末尾によると、2人が数年間にわたって行った対談の模様をまとめたものであるそう。
現代における「知の巨人」とも言える2人が日頃どんなふうに有益な情報を得ているのかが紹介されていて、一般の人にも再現性の高い、すぐに真似できる方法が詰まっています。
概要は下の通り。
- 各媒体の位置づけ
- 新聞の選び方と読み方
- 本の選び方と読み方
- 雑誌の捉え方と読み方
- 古典や教科書の有効性と活用法
- ネット情報の捉え方と問題点
- ネットニュースの活用法
- ネットよりも有効な情報収集法
包括的にテキスト情報の捉え方、選び方、読み方が書かれていて、さらに2人が具体的にどんな新聞や雑誌、ネットニュースなどを読んでいるか、その名称も特徴と合わせて紹介されているんですね。
わたしはこの本を「情報収集を学ぶ教科書」だと感じました。
- 内容が優れている
- 易しく書かれている
- すぐに実践できる
- 心理的に読みやすい
中でも、わたしがポイントだと思ったのは④です。
2人の共著なので①~③の特徴を持つのは容易に想像できますが、印象に残ったのが人柄。池上さんと佐藤さんは非常にバランス感覚に富んでいます。
自分の意見を主張しつつも他者に押し付けることはなく、さらにこの本のターゲットであるビジネスパーソンに合わせ、ときに目線を下げてさまざまなアドバイスを送ってくれているのです。
「そんなに意識が高くないよ…」。自分のことをそう思っている人でも楽しめるよう作られていて、「多くの人が心理的に読みやすいだろう」と思いました。
池上彰さんと佐藤優さんのプロフィール
「テレビのニュース解説でおなじみの物知りおじさん」
「ミステリアスな雰囲気漂うなんだか謎なインテリ作家」
お2人には失礼な表現ですが、おそらく世の多くの人の印象はこんなところではないでしょうか。
改めてプロフィールを紹介しておきます。「東洋経済store」からの引用です。
池上彰(いけがみ・あきら)
1950年長野県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。NHKで記者やキャスターを歴任、1994年から11年間、『週刊こどもニュース』でお父さん役を務める。2005年からフリージャーナリストとして多方面で活躍中。
東京工業大学リベラルアーツセンター教授を経て、現在、東京工業大学特命教授。名城大学教授。2013年、第5回伊丹十三賞受賞。2016年、第64回菊池寛賞受賞(テレビ東京選挙特番チームと共同受賞)。
『伝える力』 (PHPビジネス新書)、『おとなの教養』(NHK出版新書)、『そうだったのか! 現代史』(集英社文庫)、『世界を動かす巨人たち〈政治家編〉』(集英社新書)など多数の著書がある。
佐藤優(さとう・まさる)
1960年東京都生まれ。同志社大学大学院神学研究科修了。元外務省主任分析官。
2005年に発表した『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。2006年に『自壊する帝国』(新潮社)で第5回新潮ドキュメント賞、第38回大宅壮一ノンフィクション賞受賞。
『読書の技法』(東洋経済新報社)、『獄中記』(岩波現代文庫)、『人に強くなる極意』(青春新書インテリジェンス)、『いま生きる「資本論」』(新潮社)、『宗教改革の物語』(角川書店)など多数の著書がある。
『最強の読み方』の結論
この本の結論、つまり情報収集術における2人の共通した考えを紹介します。
- 新聞で「知り」、本で「理解する」ことが情報収集の鉄則
- 新聞が世を知るための最良ツールであることは今も変わらない
- 雑誌は娯楽として読むもの
- ネットは上級者向け媒体、実は非効率
- 古典も役に立つ
- 教科書は社会人にも有用
どうでしょうか。
わたしは2人の考えがシンプルで合理的、「体系的に美しい」とさえ感じました。
小説家・村上龍さんのエッセーのタイトル『真実はいつもシンプル』が想像され、「大切なことはやっぱりこういうことかも」と腑に落ちる感覚を覚えました。
なぜ2人がこう考えているかは本の中で詳しく語られているのでぜひ読んでみてください。
現物あるいは電子書籍で1冊持っておきたい素晴らしい本です。
『最強の読み方』の要約一覧
この本の参考になった箇所、面白かったところの要約をSNSに投稿したのでそれらをまとめ、列記します。
かなり長いので気になったところだけかいつまんで読んでもらえれば。
ただ、こちらの情報では連続性や文脈が欠けているところが多いので、ぜひ通しで本を読んでもらいたいですね。
新聞の選び方と読み方
新聞の有効性
「新聞が世の中を知るための最良のツールであることは今も昔も変わらない」と佐藤優氏。
池上氏も同意し、「ニュースサイトやSNS、ブログを辿ると第一次情報は新聞というケースが非常に多い」。
ニュースの取り上げ方が今は新聞ごとに違うため、「2紙以上読まなければ危険」と2人。
新聞にかける時間
池上彰氏は10紙以上を朝20分、寝る前に1時間ほど。朝は見出し中心、夜に興味があったものの中身を読むという。
佐藤優氏も10紙以上、1日2時間以内に収まるようストップウォッチで計りながら読むそう。「時間を有効活用するためにストップウォッチは大活躍します」
新聞の選び方①
池上彰氏「大前提として、1日5分でもいいから継続して新聞に目を通す習慣を作ってほしい。ニュースサイトよりも同じ時間でとれる情報量の多さに驚くはず。
1紙は保守系、もう1紙はリベラル系というように、論調の異なる新聞を2つ読むようにしたい」
「読むのは2紙以上で、と言っているが、一般的なビジネスパーソンであれば定期購読するのは1紙で十分」と佐藤優氏。
その新聞をサッカーでいう「ホームグラウンド」にして、論調が違う他の新聞を「アウェー」の感覚で、時間と財布が許す範囲で買う。これでいいと。
新聞の読み方②
「完璧主義の人ほど、真面目に新聞に向き合おうとしすぎて、きちんと読むか全く読まないかのオール・オア・ナッシングに陥りやすい」と池上彰氏。
「だから朝と夜にざっと目を通す。余裕があれば昼休みにも。まずはざっくりしたスタンスでいい」と佐藤優氏。
池上氏「飛ばし読みが基本。朝刊の文字数はおよそ20万字と言われていて、書籍にすれば新書約2冊分。じっくり読んでいたらそれだけで1日が終わってしまう」
佐藤氏「私も『見出しを見て、読むかどうか迷った記事は読まない』を原則にしている」
新聞の読み方③
- 見出しで済ませる記事
- リードまで読む記事
- 本文まで読む記事
池上彰氏は3段階に分けて読む。
「新聞は『大事な大きなこと』から『付随的な小さなこと』へという『逆三角形』の構造で書かれているから。どの記者もその順番で書く訓練を徹底的に受けます」
新聞電子版の有効性
佐藤優氏が6紙を電子版で読んでいるのは「その方が速く読めるから」。電子版なら1紙5分ほどで主要ニュースを押さえられるという。
「ニュースサイトは記事が時系列で表示されるなど、全体像をつかむのに時間がかかる。一方の電子版は俯瞰できるので速い」
【追記】佐藤さんの方法を真似ました。とてもいいです。
社説の捉え方
「新聞社の本音を知るには、社説とコラム欄を見るのが一番手っ取り早い」と佐藤優氏。これらに署名が入らないのは、それは論説委員個人の見解ではなく、会社としての見解を示すものだから、と続ける。
「社説が世論形成に一定の影響を与えているのは否めない」と池上彰氏。「国家の政治・経済政策への影響という点でも大きい。エリート層で社説やコラム欄を読まない人間はいない」と佐藤優氏は応じる。
池上氏「新聞のバイアスを知っておけば記事を読むときに役立つ」
地方紙の存在感
「全国レベルで見ると県紙やブロック紙を読んでいる人口はかなり多い」と池上彰氏。佐藤優氏は「沖縄は全国でも地方紙の普及率が最も高く、全国紙を1紙でも読む世帯は数%」と続ける。
池上氏「全国紙の実態は大都市とその周辺の人が主に読む『大都市圏新聞』」
地方紙の読み方
「地方紙の広告を見ると、その地域のいろいろな事柄が見える」と話す佐藤優氏が着目するのは、
- 死亡広告
- 不動産広告
- 書籍広告
死亡広告
沖縄では県紙が2つあるが、死亡広告の掲載量でそのときにどちらの新聞の方が影響力があるかわかるという。
不動産広告
「新築と中古、マンションと戸建てのどちらが多いかで経済の動きを類推できる」と佐藤優氏。
書籍広告
「東京の出版社が地方に書籍広告を出す事例からは、その土地の住民性を捉えられる」と池上彰氏。県の雰囲気と元気度もわかると佐藤氏も同意。
地方紙の読み方②
「地方紙のメリットは通信社のニュースをカバーできること」と佐藤優氏。
海外の新聞の場合、事実関係は通信社の記事を最大限に使い、自社ではコメントや独自記事に注力するなどすみ分けているという。
全国紙だけでは通信社の重要なニュースを見逃す恐れありと。
朝日新聞の特徴
国会議員や官僚などのパワーエリートが好んで読み、その影響下にあるのは紛れもない事実(佐藤)。
日曜掲載の書評が従事。書籍広告も他紙より多い印象(池上)。朝日の書評と書籍広告は出版業界の人も注目している(佐藤)。
読売新聞の特徴
「安倍政権の機関紙のよう。首相と親しい渡邉恒雄氏のカラーが強く出ている」と佐藤優氏。池上氏も「読売はナベツネ個人商店の新聞というイメージ」
池上「海外関係の記事が充実」、佐藤「生活面、特に『人生案内』が面白い共通見解もある」
毎日新聞の特徴
「個々の記者にパワーがある」と佐藤優氏。琉球新報と提携していて記事が転載されることもあるので、沖縄の状況を等身大で読むことができるという。
「記者の目」もいい、と池上彰氏。「社論と異なる見解が出ることから、社内の自由な雰囲気がよく伝わってくる」
日経新聞の接し方
「向上心の高い若者ほどいきなり日経を読もうとして挫折する」と佐藤優氏。
池上彰氏も同意。「そもそも新聞は定期読者が飽きないよう、煩わしく感じないようさまざまな前提を飛ばす。新聞に慣れていない人は無理せず一般紙から」
共同通信とは
共同通信は全国の新聞社とNHKが資金を出して作った一般社団法人。論説委員会があって社説も配信。「地方紙が数行だけ変えて載せることはよくある」と池上彰氏。
地方紙には通信社の署名が入らないのでわかりづらいが、共同の記事が高割合を占めるはず、と佐藤氏。
佐藤氏「共同も時事も国際ニュースは優れている。全ての分野で強いのが特徴」。一方、共同のニュースはサイト「47NEWS」で見られるが、「正直、情報がスカスカ」。
池上彰氏も同意、「加盟新聞社の手前、あえてウェブの情報を充実させない方針をとっているのだろう」。
時事通信の特徴
共同も時事も元は同じ組織だったが、戦後に2社と電通に分かれたと池上彰氏。
佐藤優氏は「時事は世界的には強い影響力を持つ」。
時事の内外情勢調査会は国際情勢について政府の立場を地方のエリートに理解させるために始まった団体。内閣情報調査室と直結すると。
注目の海外紙
佐藤優氏はニューヨーク・タイムズを、池上彰氏はフィナンシャル・タイムズを、日本語版では両氏ともウォール・ストリート・ジャーナルを読むという。
池上氏「フィナンシャル・タイムズは気取った表現がなく、基本的な経済用語さえ知っていれば誰でも読めるのがいい」
夕刊紙とスポーツ紙の意外性
「夕刊紙やスポーツ紙の社会面には意外に重要な情報がある」と佐藤優氏。一般紙だったら遠慮する内容でも、思い切って書いていることが多いからだという。
「夕刊フジや日刊ゲンダイは重要な情報源。また夕刊紙は読者の反応がいい。店頭払いなのでしっかり読む人が多いのだろう」
雑誌の捉え方と読み方
電子雑誌の優位性
「電子雑誌の定額読み放題は大革命。従来の雑誌1冊分かそれ以下のコストで多種多様な雑誌を読める」と佐藤優氏。佐藤氏は「dマガジン」を契約。
「電子雑誌の方がSNSやネットサーフィンよりもインプット効率が良く、娯楽としてもよほど楽しい」
雑誌の捉え方
ほとんどの雑誌は仕事に不可欠なものではないので、基本的に娯楽で読むものだが、うまく使えば興味や関心を広げるツールになる、と佐藤優氏。
一方の池上氏は「編集・校閲が働いている点が大きい」。明らかなデマが弾かれる確率が高いのがいいところだという。
雑誌の買い方
一般のビジネスパーソンなら無理に定期購読する必要はなく、「興味がある記事や特集があれば購入する」という付き合い方でいい、と池上彰氏。
池上氏は新聞広告や中吊りを見て、「読みたい記事が2本あれば買う」を原則にしているという。
雑誌の読み方
拾い読みが基本(池上彰氏)
「書籍を開くほどの余裕がない、ちょっとした空き時間に気分転換に読む方法がいい」
興味に限定しない(佐藤優氏)
「勉強になりそう、今後広がっていきそうなテーマも読むようにしてる。そうしないとどんどん視野が狭くなるから」
信頼する書き手の記事を読む
理解できる記事だけ読む
理解できない記事=①専門用語やニュース背景がわかっている前提で書かれているもの→書籍を読むことが必要。
②論理の飛躍・破綻、詩的・文学的な文章→効率的に読むなら記事をはじく必要もあるとのこと。
週刊誌の捉え方
週刊誌は記者が裏を取らずに書いているケースがあり、情報の信頼度が致命的な問題、と佐藤優氏。
一方、速報性と信用度の高い情報があるのも事実で、一刀両断は早計と池上彰氏。
佐藤「娯楽として読み、鵜呑みにしない、信頼する書き手の記事を中心に読むのが王道」
週刊誌の危険性
中吊り広告を鵜呑みにしない
中身を見た上で判断する
「週刊誌の場合、中吊り広告が作られるのは記事入稿の前。中吊りは仮題で記事は違う内容に差し替えられることも」と池上彰氏。
「週刊誌の影響力は実売部数より新聞広告と中吊りによるところの方が大きいかも」と佐藤優氏。
佐藤氏も痛い目にあったという。
週刊文春の中吊りで、「鈴木宗男の運転手をする外務省幹部の正体」と書かれたが、「記事の内容はめちゃくちゃ」。
「鈴木さんの事務所の場所は違うし、そもそも私は日本の自動車免許を持っていない。要するにたんなるデマだった」
2人が読んでいる経済誌
池上彰氏
- 週刊東洋経済
- 週刊ダイヤモンド
- 週刊エコノミスト
- 日経ビジネス
佐藤優氏
日経ビジネスを除く上の3紙
経済誌の特徴
「よくも悪くも編集部の方針をあまり感じない。特定の主義主張に固執しないので、その時々のトレンドやニュースをかなり公平な視点で見られる」と佐藤優氏。池上彰氏も同意。
また、大きな特集を毎回組み、それが他誌とかぶらないので複数読んでも意味があるという。
経済誌の特集のいいところは「書籍よりも情報が早いこと」と佐藤優氏。シェールガスもドローンもピケティも、世の中で話題になり始めたころ先陣を切るように特集したと。
ただ、本格的に知識を身につけたいと思ったら「やはり書籍に進むべき」。
2人が読む月刊誌
池上彰氏
- 選択
- FACTA
「他媒体で取材を重ねた記者が本紙に書けなかったような裏話を多く掲載、読み応えがある」
佐藤優氏
- 世界
- 中央公論
「世界はリベラル誌の貴重な生き残り。中央公論は安倍政権の機関紙という側面があり、政権意向を知るのにいい」
文藝春秋の特徴
「地方の学校長、町長、村長など古くからのエリート層が読む雑誌」と佐藤優氏、池上彰氏。
「極度に右寄りだが、ありとあらゆるものが入っている論壇カタログ。目を通した方がいいと思う理由は、ここで論点が決まるから」(佐藤)
本の選び方
書籍の意義
「読書や学問も基本の型が大事」(佐藤優氏)
- スポーツや芸術と同じ
- 読書で知と思考の型が身につく
「肩を崩すのはあくまで型を身につけたあとにはじめてできること。基礎固めをしてこそ、それを発展させたり、クセ球や変化球を投げることもできる」(池上彰氏)
書籍の優位性
基礎知識を身につけるために重要なことは「記述の信頼度」と「体系的かどうか」で、これらに最も適しているのが書籍。
「編集者や校閲者という他人の目を通っているので、間違いが訂正されたり、文章が読みやすく、説明がわかりやすくなっていたりする」(池上彰氏)
本の選び方①
気になるテーマに出合ったらすぐに書店に足を運び、関連書籍をまとめ買いするのが池上彰氏の習慣。
佐藤優氏は「書店員の知識を最大限活用し」「帯に注目する」。「大型書店の専門書売り場の書店員の知識は、月並みな大学教授を凌駕する」
本の選び方②
タネ本を読むべし
まとめ買いした本を何冊か読むと、それらのもとになっているタネ本(基本書)がわかる。それは熟読する、と池上彰氏。
「タネ本は関連書籍でもあまり言及されていない。それを見て書いてるのがバレると気まずいから、筆者は言及を避けている。そんな不自然さもタネ本探しのヒントになる」(佐藤氏)
本の選び方③
知識・教養として知っておいた方がいいことは「通俗化された良書」で時間の節約を、と佐藤優氏。2人が勧める著者、シリーズはこちら。
- 阿刀田高
- 加藤周一
- 講談社ブルーバックス
理科系だと『素数入門』『数論入門』『不完全性定理とはなにか』『ゼロからわかるブラックホール』。
池上流いい本と出合うためのコツ
本をたくさん買う
迷ったら買う
「本1冊と同程度の情報を人を通して得ようと思ったら、食事代や謝礼など本代の何倍もかかる」(佐藤優氏)。
「セミナーや講演会もそう。書籍のページ数に換算すると、たいしたことない」(池上氏)
本の読み方
熟読本と速読本を分ける
池上彰氏-タネ本は熟読。どの本も「はじめに」と「おわりに」は目を通す。
佐藤優氏-速読本も全ページをめくる。熟読に値するかどうかは、真ん中を開いてそこを少し読んでみること。「筆者も編集者も集中力が切れる、最も弱い部分だから」
「奴隷の本」と「お姫様の本」
徹底的に使い込む前者と愛蔵書として大切に扱う後者に分ける、と池上彰氏。
奴隷の本については
- 線を引く
- 思いついたことを余白に書き込む
★A4コピー用紙の裏紙を四つ折りにして挟み、気になる文章をその紙に書き込む。
国内の移動は新幹線
「本を読むため」と池上彰氏。東京ー広島、東京ー仙台・盛岡くらいまでは飛行機を使わず、新幹線にしているという。
「飛行機だとセキュリティチェックや乗り換えに時間をとられる。行きに1冊、帰りに1冊、予備に1冊の計3冊はカバンに」
古典の有効性と活用法
古典の有効性①
基礎知識を身につけるには、「古典を読みこなすことも重要」と佐藤優氏。コツは、「興味のある分野のニュースと絡める」。
- 捕鯨問題ー『白鯨』
- 欧米インフェルノ流行ー『神曲』
古典の有効性②
思想哲学書も役に立つ
佐藤優氏のお勧めは
- 『人類の知的遺産』(講談社)
- 『世界の名著』(中央公論社)
- 『日本の名著』(同)
- 『日本の文学』(同)
「論理的な思考力を身につけるためには、難解な本と格闘する経験が必要不可欠」(池上彰氏)
池上氏の書いた『世界を変えた10冊の本』も古典の入門書としてお勧め、と佐藤氏。
『アンネの日記』『聖書』『コーラン』『資本論』『沈黙の春』『種の起源』『資本主義と自由』など。
「池上さんのわかりやすい解説とともに、内容がスラスラと頭に入ってくる」
教科書の有効性と活用法
ビジネスパーソンに必要な知識の型は「中高生向けの教科書で身につく」という。
「政治や経済でいえば、ニュースを解説するための基礎知識は、中学生向けの『公民』の教科書にほぼ解説が載っている」(池上彰氏)。「ぜひ手にとってほしいのは下の教科書」(佐藤優氏)
- 公民
- 歴史
- 国語
- 英語
歴史を学び直す方法①
「世界史A」「日本史A」
「商業・工業高校で使われている世界史Aは近現代史に比重が置かれ、歴史の流れと要点を押さえて解説してあるからわかりやすい」(佐藤優氏)
「Bの方は難関大の受験を視野に入れているので説明が細かく、難しくなりがち」(池上彰氏)
『大学への日本史』
「受験参考書の名著」と池上彰氏。佐藤優氏の企画・編集・解説で2冊に分けてリニューアル復刊したという。
「この参考書は一人の著者が書き上げているのでストーリー性が非常に高く、読み物としても非常に面白い」
歴史を学び直す方法②
「歴史小説で歴史を学ぶのは厳禁」と佐藤優氏。
例:『坂の上の雲』
明石元二郎陸軍大佐とレーニンが面識があったように書かれているが、文献的な証拠は本人が書いた『落花流水』しかない。
「あくまで娯楽。史実と勘違いして鵜呑みにすると大変危険」
英語を学び直す方法
中学2、3年向けの教科書の例文を丸暗記
「いちばん下地になった。同時通訳者だった國弘正雄さんも、中学の教科書を声に出して読めば文法を意識しなくても、構文の仕組みが感覚的にわかるようになると」(池上彰氏)
その後、単語を覚えればいいとのこと。
英単語学習にお勧め(佐藤優氏)
- 『システム英単語』
- 『総合英語Forest』
今の中堅の大学入試は時事英語に向かっていて、ビジネスパーソンでもそのまま役立つという。
読解力向上にお勧め(池上彰氏)
- 『出口汪 現代文講義の実況中継』
論理的思考力も鍛えられるとのこと。
教科書以外での学習方法
「スタディサプリはすごくいい」(佐藤優氏)
- リクルートの受験サプリ
- 月額制で講義がPCで見放題
- ビジネスパーソンのやり直し勉強法としても最適
「講師の教え方が抜群にうまい。やった実感として、早慶上智の文系まではこれで十分合格できると思った」
ネット情報の捉え方と問題点
ネットの問題点①
玉石混交
編集と校閲の欠如
「ネット空間はノイズ過多。いい加減な情報はノイズにしかすぎず、ノイズ情報をいかに除去するかが、ネットから『玉』を得るポイント。何を読まないかも非常に重要な技法」と佐藤優氏。
池上彰氏「実はネットは上級者のメディア」
ネットの問題点②
「非常に効率の悪いメディア」と池上彰氏、佐藤優氏。
時間に対して得られる情報が少ない
←ネットサーフィン
←時系列展開+要クリックの仕組み
←多くが二次、三次情報
「根っこの一次情報はマスメディア発。それなら新聞や雑誌で精度の高い情報を得た方がいい」
ネットの問題点③
プリズム効果
特定のものだけが大きく見えたり、別のものが見えなくなったりする現象。「ネットのヘビーユーザーほど影響を受けやすく、SNSほど傾向が顕著」と佐藤優氏。
「ネットは気を付けないと視野を狭め、偏見を増長させてしまう。視野が広がるは勘違い」
ネットの問題点④
ネットのヘビーユーザー
→ネットの論調=社会全体の論調
→安易なマスコミ批判や陰謀論
こんな思考・行動を辿る人が少なくないと池上彰氏。「メディアが報道しないのはほとんどの場合、『裏がとれない』『確認がとれない』からなのですが…」
ネットの問題点⑤
自分に入る情報が偏る
過去の閲覧履歴や検索履歴に合わせて、表示内容が変わる。この傾向は非常に危険。
いわゆるネトウヨの人たちは、毎日パソコンやスマホで「日本が危ない」「日本人は騙されている」という情報ばかり見ているのでは、と佐藤優氏。
グーグルの問題点
最近の情報しか出てこず、使い勝手が悪い(池上彰氏)
意外と効率が悪いことをもっと多くの人に知ってほしい(佐藤優氏)
「ウィキペディアも信用できない」と両氏。佐藤氏の出生地や池上氏の出身高校が長く間違っていたという。
ネットニュースの活用法
2人が利用するニュースサイト
- NHKオンライン←情報が早い
- 東洋経済オンライン←企画や解説が優れ、人に関する有益な情報も
池上「ヤフーニュースとハフィントンポストも空き時間にざっとチェックしています」
ヤフーニュースの位置づけ
娯楽で見るにはいい
←アクセスを稼ぎやすい芸能やスポーツが上位に来る傾向(佐藤優氏)
→世間でどんな芸能・スポーツニュースが関心を持たれているかを知るための尺度(同)
「ヤフーニュースで『ニュースを見た』と思うのは危険」(池上彰氏)
ネットで参考になるサイト
公式筋のウェブサイト
首相官邸や外務省のサイト、財務省や外務省の会見記録、国会の議事録は極めて重要な情報源(佐藤優氏)
「まとめ記事が人気だが、ネットの利用価値はむしろ原文にある。まとめ記事は誰がどんな目的でまとめているかわからない」
ネットより有効な情報収集法
専門外ならまずは「ジャパンナレッジ」(会員制辞書サイト)(佐藤優氏)
「今でも原稿を書くときは、これらのツールで事実関係を校閲しながら書いている。情報もきちんと更新されていて、安心して使える」
電子辞書
「ネットサーフィンの誘惑を避けるため、電子辞書で済ませられるものはまずそれで」(佐藤優氏)
「百科事典を引く習慣は、ウィキペディアの不確かな情報を避けるだけでなく、きちんとした知識を身につけるためにも効果的」(池上彰氏)
SNSの特徴
確実にインプットの時間を蝕む
メリットはアウトプットにある
「きちんと読み手を意識して、自分が得た情報を整理して書く。そうすることで知識は自分のものになる。アウトプットを意識してインプットする方が効率も上がっていくはず」(池上彰氏)
佐藤優氏の情報管理術
エバーノート×ドロップボックス
- あらゆる紙情報→段ボール→必要なものをスキャン→エバーノート→紙は処分
- ドロップボックス=原稿保存場所
「ドロップボックスは原稿を保存する度に自動で新しいファイルを作成。修正前のものと比べられるので推敲しやすい」
人からの情報収集法(取材術)
「情報を引き出そうと思ったら『はじめて聞きました』という初々しさが大事」(池上彰氏)
何でも興味を持って聞き、教えてくれたら「そうなんですか!さすがですね」と心底、感心する。「相手は気持ちよくなって、もっといろいろ話してくれる」
自分で事前につくったストーリーに縛られないこと
「取材すれば、予想外の新しい発見が必ずある」(池上彰氏)。きっちり下調べをした上で、いかにそれを崩せるかという「緩やかな演繹法」が大切。
仮説を立てる演繹法で始め、調査結果でそれを修正する帰納法で展開。
記事内の情報、考え、感情は書いた時点のものです。
記事の更新情報はツイッター(@freemediwriter)でお知らせします。
関連記事
ブックレビュー
【要約と感想】『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事』
医療ライターお勧めスキンケア本レビュー【美容常識の9割はウソ】