「ライターに文章力は要らない」
ライターや編集者でない人が聞けば驚くかもしれませんが、業界に関わる人であれば一度は耳にしたことのある意見ではないでしょうか。
この考え、一般論のアンチテーゼとしては面白くてわたしも限定的には成り立つと思うんですが、実感としては「半分正解で半分外れ」。
文章を書くことを生業とするライターに対して「文章力は要らない」とする考えがあるのはなぜなのか。そしてフリーライターのショウブ(@freemediwriter)が、「半分正解で半分外れ」と言う理由は何か。
結局のところ、ライターにとって文章力はやはり大切で、文章を磨いていくことで仕事の面白さが広がりますよ、という話をします。
特に、企画から全てやりたいライターに読んでほしいです。
なぜ、「ライターに文章力は不要」説があるのか
独立前、あるライター兼編集者のブログを読んでいて、面白いなあと思う記事に出合いました。
要約すると、「ライターは文章が下手でも稼げる、なぜかというと、こだわりが強くて使いづらいライターが少なくないから」といった意味のことが書かれていたのです。
文章が下手でも記事の内容が面白ければ良い、そもそも編集者は文章に手を入れるのが嫌いじゃないし、むしろ好きな人もいる。それに、文章力よりもライターの人柄を買う編集者もいる。
その一方で、原稿を自分の作品とみなして推敲に推敲を重ね、挙句、締め切りに遅れてしまう、そんな人は使いたくない。
大体こんなことが書かれていました。
わたしが会社員として記者をしていた時は「書けないヤツはダメ」と言われていたのでこれは新鮮な考えで、フリーランスを志望していた当時のわたしは興味深く「なるほど~」と思いながら読み進めていったのでした。
で、独立して3年半が経つ今どう思うかというと、わたし的には「半分正解で半分外れ」です。
ライターは取材力と文章力以外でカバーできる
「ちょっと庄部さんには悪いかなあと思って、今回はあの人に頼んだんだよね」
超短納期の案件を他のライターに振った、そう編集者が話していたことがあります。
その編集者が言うには、文章力はわたしの方が上。でも、そのライターはフットワークが軽くて依頼をほとんど断らず、取材の翌日が締め切りでもどうにかこうにか間に合わせるそう。
フリーライターに求められるのは文章力と取材力だけじゃないんですよね。
わたしはマーケティングも兼ねて、一緒に仕事をする編集者や経営者には主に3つのことを聞くようにしています。
ライターに何を求めるか、どんなライターがいいか、逆にどんなライターは嫌か、仕事しづらいか。
すると、依頼者側は複数の評価軸(下記)を持っていることがわかります。
- 取材力
- 文章力
- 専門知識
- 企画力
- 清潔感
- 人柄
- 雑談力、コミュニケーション力
- レスポンス(メール)の早さ
- 原稿提出のスピード
- 意欲
これらの中で人によって何を優先するかは違っていて、例えば紙媒体の編集者の中には、印刷へ回す工程がある関係で締め切りを遵守するライターを求める人がいますし、広告制作会社の中には広告主が気持ちよく取材に答えられるような(機嫌を損ねないような)コミュニケーション力の高いライターを求める人がいます。
「文章は下手だけど、すぐに原稿を上げてくるから締め切りがタイトな案件はこの人に」「原稿は遅いけど、この案件は専門性が高いからあの人に」といったように、複数のライターの中から案件の特徴にマッチした人を選ぶ編集者もいます。
もちろん、取材で深掘りするのがうまくて文章が光る、人柄も良くて接しやすく、メールでのコミュニケーションも問題ない、といったような総合点の高いライターが求められやすいとは思いますが、依頼者側の状況と仕事の内容によっては、「原稿がめちゃくちゃ早い」といった要素で一点突破することも可能だということです(まあ、現実的には一点じゃ足りなくて少なくとも二点は要るような気がしますが)。
これらが、「ライターには文章力は要らない」を否定しない理由です。
取材先が評価するのは取材力と文章力の2つ
「そうはいっても、ライターは文章を磨いていかないとダメだよね」「やっぱり文章力は大切」とわたしが思う理由は、そうしないとライターとしての面白さに幅が出ないからです。
「ライターに仕事を依頼する企業側には複数の評価軸があって、編集者や経営者によって優先順位が違うから文章力以外の面でアピールできる」というのはそうですが、取材先に対しては違います。
取材先はほぼ、取材力と文章力の2つの要素でライターを評価します(遅刻をしないとかあいさつをちゃんとするとかそういった基本的なことは除いて)。
新聞記者やフリージャーナリストであれば、その人の元に足しげく通うことで信頼を得てやっと取材させてもらえる、といったことがあり得ますが、フリーの商業ライターの場合、取材先とは取材時に初めて出会い、そのまま取材に入ることがほとんど。
取材が終わって少し雑談をしたとしても早々にお別れをして、取材先からすればあとの接触は企業もしくはライターから原稿が送られたときになる。
必然的に、取材力と文章力の2点で評価されることになるわけです。
編集者が間に入っている場合は最悪、文章が下手でもいいんです。
編集者が取材先の窓口になって、アポイントを取り、ライターの文章を校正し、それを取材先に送って原稿のやり取りをする。
このケースだとライターは守られていますから、極論、編集者だけに評価されていればいい。
しかしながら、ライターが企画から全てやる場合だとどうでしょう。
企画を立て、企画に合った取材先を探し、アポイントを取って一人で取材・撮影をし、原稿を書いてそれを取材先に送ってチェックしてもらう。
取材力と文章力が低いとまずい展開になります。
「このライターはちゃんと準備をしていないな」「基本的なことばかり聞いてきて深みがない」「文章を読んだらやっぱり理解していなかった」「読みづらい」「本当に言いたいことが書かれていない」
こんな印象を持たれたら、まず信頼はされません。原稿のやり取りもしんどいものになります。
もちろん、人間同士なので相性はあるわけですが、取材力・文章力ともに高くて取材先に自分の仕事ぶりを喜んでもらえたら原稿のやり取りはスムーズにいきますし、ネタと人も紹介してもらいやすくなるのです。
取材先を起点に仕事を広げるのも面白い
わたしは昨年2018年の秋から企画から全てやる仕事をしていて、今はこういったタイプの仕事が全体の6割ほどを占めます。
これがとても楽しい。
企画を「面白い」と編集者に言ってもらえるとうれしいですし、自分の企画が多くの人に読まれるとさらにうれしい。
悲報…「少量飲酒は体にいい」説を否定する論文が発表されていた
例えば、講談社が運営するウェブメディア「現代ビジネス」に掲載された上の記事はわたしが企画から行ったものですが、サイト内ランキングでトップを取り、ヤフー雑誌ランキングの総合部門でも2位になりました。記事が掲載されて1ヵ月ほどでフェイスブック上では約2300人にシェアされました。
それに加えて、取材先と関係を結んでいくのもすごく面白いんです。
自分を信頼してもらえたからだと思うんですが、取材の最後に「あの人も面白いよ」「こんな話もあるよ」と教えてもらえることがあって、それでスムーズに次の企画を立てられることがありますし、単純に「素晴らしい文章だった」と褒められるのはやっぱりうれしいものです。
過去に数多くの取材を受けたベテランの医師は、「ライターと称する人の中には大学生のレポート程度の文章を書く人もいて辟易とすることがある。しかし、庄部さんの文章は良かった。久しぶりにいい気持ちで読めた」とメールで話してくれました。
取材力・文章力が高ければ取材先に信頼してもらいやすくなり、信頼してもらえれば原稿のやり取りがスムーズに進み、ネタと人的ネットワークが増えていく。
全体的に仕事が進みやすいので、企画から携わる仕事への意欲が高まりやすい。そして企画から行う仕事は原稿料が高めに設定されることが多い。
ライターとしての可能性がぐっと増すんですね。
取材先と個と個の関係ができるのも面白いですよ。
何でしょう、語彙力が乏しいですが、「自分はフリーランスのライターなんだ」「むき身の自分で世に対峙しているんだ」という充実感を得られます。
ライターとして文章以外でアピールすることは十分に可能です。
ですが、ライターの面白さを増やして仕事の自由度を高めていくためにもやっぱり文章力は大切。
わたしも常に、「もっといい文章を」と高みをめざして仕事していこうと思います。
フリーライターの庄部でした。
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