「ライターとして稼いでいくためには専門性を持った方がいい」「専門性のあるライターは重宝される」
ライターであれば、こんな情報を一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。
幅広く取材しているライターの中には快く思っていない人もいるかもしれませんが、実際どうなの? と関心を持っている人もいるはず。
ネットの中には「ライターが稼いでいく方法」を定型化している記事も見かけますが、多くの場合に書き手が特定できず、その人が経験したことかどうかもわかりませんよね。
そこで、2016年に独立してから医療だけを取材し続けるライターショウブ(@freemediwriter)が今までに実感したことを紹介します。
概要は下の通り。詳しくは本文をご参考ください。
- 知識がうなぎ登りに増える
- 効率的に深く取材できるようになる
- 仕事全体の効率化も図れる
- 取材先からの評価が高まる
- リピートされやすくなる
- ブログの検索上位化に成功しやすい
- 嫌な仕事をしなくてよくなる
- 自己肯定感が高まる
- 友人の相談に貢献できる
- 探求心が強くなる
知識がうなぎ登りに増える
まずはこれです。
特定の分野を取材し続ければ、知識がうなぎ登りに増えます。
幅広く取材している人に比べるとそのスピードの差は大きいのではないでしょうか。
わたしは独立して1年目のころ、「きのう聞いたことがきょうの取材で役立った」ことが頻繁にありました。
実例は次に書きます。
効率的に深く取材できるように
ライターとして大切なのは、目の前にいる取材相手に好意と熱意をもって楽しく話を聞いていくことだとわたしは思いますが、知識も重要です。
その分野に関して浅くても広い知識を持っていれば、まず、聞かなくていいことが増えますよね。
例えば、胃の内視鏡検査でいうと、方法としては口から管を通す経口内視鏡と鼻から管を通す経鼻内視鏡があって、「経鼻だと経口で起こり得る吐き気を催すことがなくて楽」というのが医療の世界の一般論としてあるわけです。
わたしはこれらのことを既に知っているので、ゼロから聞いていく必要はなく、こんなふうに掘り下げていくことができます。
「~(一般論)をよく聞きますが、経口でも鎮静剤を使えば(麻酔をかければ)楽に受けられるのではないでしょうか」
「経鼻は楽だと聞きますが、一方で鼻腔が狭い人の場合、管を通すときに痛みが起こる可能性もあると聞きますが、先生はどうお考えですか」
「経鼻だと管が細いのでちゃんと見られるのかと疑問に思う人もいると思います。少し前は経鼻だと画質が荒かったと聞いたことがありますが」
このような質問をすることで「経口より経鼻の方が楽」という一般論に奥行きを持たせることができます。
「確かに痛みがないことだけを求めれば麻酔をかけて経口を行うのがベストだけど、検査終了後に休んで意識が正常に戻るのを待つ必要があるから時間はかかる」
「鼻から管を通すルートは4つあって、慎重に見ていけば、どこかからは痛みなく入る可能性が高い。だけど、若い人で特に小顔の女性の場合は鼻からだと痛みが強くて入らないこともある」
「確かに経鼻だと画質が悪いと言われたこともあったけど、機器が進歩したから、『経鼻を使ったために経口で見えたものを見落としてしまう』ことは起きづらいと言われているよ」
一般論はネットで知れますから、取材ライターとしてはこんな情報を得たいところ。
ちなみに、胃の内視鏡検査は自分でも体験してレポートしました。
鼻からの胃カメラは本当に楽?ライターが体験した【苦しかったです】
仕事全体の効率化も図れる
わたしの場合、専門的な知識が増えることで仕事全体の効率も上がりました。
ライターの仕事の内訳は主に
- 企画
- 取材先の選定
- アポ取り
- 取材の準備
- 取材
- テープ起こし
- ライティング
- 校正
- 原稿に関する取材相手とのやり取り・修正
- 原稿に関する編集者とのやり取り・修正
10項目あり、案件によっては①~③、⑥、⑨、⑩がなくなることがあるわけですが、専門性を高めていくことで、この中の③「アポ取り」と⑧「校正」以外の8つの項目を時短できました。
まず、取材人数と知識が増えるほど企画を立てやすくなり、取材先を選びやすくなります。
そして、取材準備の時間も減ります。
テープ起こしやライティングにかかる時間も同様で、さらに質が高い記事を書けるケースが増えていくことで、取材相手や企業からの修正依頼の量も減ります。
これらのことはライターではない人でも想像しやすいのではないでしょうか。
取材先からの評価が高まる
知識が増えて取材時の効率が上がり、深堀りしやすくなることで、取材先から評価も得やすくなったように思います。
その分野についてある程度の知識があることで、取材相手は「変な記事は書かれないだろう」と安心しやすくなりますし、その人からすれば基本的だと思えることを話す手間がなくなりますから、ストレスも減るのではないでしょうか。
「そうそう」「そうなんだよ」「よく知っているね」「確かにそれは患者さんからよく聞かれること」といった反応が増えていくと、自然に取材も盛り上がって、「思いもしなかったいい話や深い話を聞けた」なんてこともあります。
そして、自分が書いた記事に対して「非常に正確」「わかりやすい」「よく書けている」「そのまま出して(掲載して)」といった声も聞かれるようになります。
編集者や企業の担当者から喜んでもらえるのはうれしいですが、わたしは取材相手に認めてもらえる方がうれしいんですね。
取材するときは基本的に企業が求めることを意識しますから、取材相手を何らかの枠にはめて話を聞くわけです。
そういった条件下であっても、取材相手が気持ち良くなってくれることがライターとしてのわたしの大きな喜びです。
リピートされやすくなる
これらの結果、クライアントからの評価も上がりやすくなると思います。
何か特定の分野だけを取材し続けているライターは全体から見れば少なくて、その分野に特化した媒体であれば専門ライターは貴重な存在でしょう。
「他のライターよりも面白い情報が引き出せる」「取材先からの評判もいい」「原稿が正確」であれば、評価は上がりやすいのではないでしょうか。
実際は「感じがいい」とか「メールでのコミュニケーションがスムーズ」とか「締め切りを必ず守る」とかいったことがライターの評価を大きく左右するわけですが、仕事の質に焦点を絞れば上のようなことは言えるのではないかと。
ブログ検索上位化に成功しやすい
専門性を持つライターであれば、専門分野をタイトルに盛り込んでブログを運営することで検索上位化に成功しやすくなるとも思います。
というのも、わたしの印象からすれば自分のブログやサイトを持っているライターは全体のうちまだ少数で、運営していたとしても専門性の高い人は少ないためです。
つまり、企業側が「●●(専門性)ライター」で検索をかけても「いい人が見つからない」状況だと思うんですね。
だからこそ、そういった企業の悩みに応えられるような、「この人なら頼んでも良さそうだ」「頼んでみたい」と思われるような内容のブログを運営することで、ブログ経由で仕事を得られるようになります。
実際に、わたしは独立1年目にブログを立ち上げ、その3カ月後に「医療ライター」などの検索条件で1ページ目にブログが表示されるようになりました。
それからおよそ月に2件のペースで企業から問い合わせをもらえるようになり、2年目からは営業をしなくていいようになりました。
嫌な仕事をしなくてよくなる
ライターとしての価値とリピート率が高まり、さらにブログの検索上位化に成功して自動的に問い合わせが来るようになれば、仕事と人を選べるようになります。
結果、嫌な仕事をしなくて済むようになります。わたしの経験です。
自己肯定感が高まる
これらの結果、わたしの場合は自己肯定感が高まりました。
専門ライターとして自分の存在意義を少なからず感じることができますし、会社員とは違って人と仕事を選べますからストレスも少なく、そうできている自分に対して満足感を得られるようになったのです。
友人の相談に貢献できる
友人の相談に乗れたこともうれしかったですね。
わたしは過去、「歯の根管治療を受けようとしているけどこのクリニックでいいのか」と聞かれて役に立てたことがありました。
根管治療とは、虫歯が進んで神経に達した際に、神経を取り除いて神経が入っている管(根管)の中を清掃、除菌するものですが、この治療を専門に経験を積んできた歯科医師は少ないんですね。
なのでわたしは、「まずはそのクリニックにある機器に着目することがポイント」とその友人に伝えました。
同治療は診断と治療に精密さが求められるので、具体的にはCTとマイクロスコープの2つを備えているところが望ましく、特に根管治療では肉眼で確認しづらい神経を扱うので、観察対象物を約20倍まで拡大できるマイクロスコープは必須だろうという考えを話しました。
そして、友人が検討しているクリニックのホームページを見て機器があることを確認、天然の歯を守ることに注力していそうなことから「まずはそこで話を聞いてもいいのではないか」と言いました。
友人からは「ありがとう! そこに行ってみる」と聞かれて、来院後の感想もポジティブなものだったのでうれしかったです。
探究心が強くなる
最後に挙げたいのがこれです。
ライターの仕事の最大の魅力は、この仕事をしていなければ知らなかったであろうことを知れることだとわたしは思います。
専門的に取材を重ねていくと、先に挙げたように知識が増えて自分の興味のあることを聞ける時間も確保しやすくなりますし、また知っているからこそ疑問に思うことも増えていきます。
先述した胃の内視鏡検査に関する質問のようなことですね。
知っていくほどに「これはどうか」「あれはどうなんだろう?」と疑問が増えていく、その疑問が解消したらまた新たな疑問ができる。
こうした良い連鎖が生まれるようになり、探究心が強くなっていくのも専門ライターの醍醐味と言えるのではないでしょうか。
メリットが多い一方、デメリットは…?
わたしは医療を取材するのが好きで、「稼ぎやすそうだから」などといった戦略で分野を選んだわけではないので、特にデメリットは感じていません。
記者時代にいろいろな取材を経験して、「自分に向いてそうだ」と思った上での判断なので、今からまた幅広く取材したいとも思っていないんですね。
ただ、専門ライターのネガティブな可能性として胸に留めておいた方がいいこともいくつかあります。
- 天狗になりやすくなる
- 井の中の蛙になりやすくなる
- 先生扱いされていい指摘を得づらくなる
- この程度でいいかと満足して向上心がなくなる
少なくともこれらはパッと浮かびますし、またあまりにニッチすぎる分野だと経済的に食べていきづらい状況も起こり得るのではないでしょうか。
そもそも、幅広い分野に同程度に関心のある人は専門化することでむしろストレスがたまってしまうかもしれません。
わたし個人の例ですが、再現性が低くなさそうなことを書き出しました。
参考にしてもらえるとうれしいです。
医療ライターの庄部でした。
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