「この言葉は平仮名と漢字のどっちで書くといいんだろう」「漢字にするときは洋数字の方がいいのか、漢数字の方がいいのか」
文章をほぼ毎日書いているフリーライター・ショウブ(@freemediwriter)が、表記に迷う言葉を紹介する記事の第3弾。
今回は下の言葉について、新聞社の規定に採用されている「記者ハンドブック」(新聞用字用語集)の見解を紹介します。
- 「良い」か「よい」か
- 「一つ」か「ひとつ」か
- 「1人」か「一人」か「独り」か
- 「事」か「こと」か
- 「来る」か「くる」か
- 「過ぎ」か「すぎ」か
記者ハンドブックに記載されていることはあくまで業界の考え方に過ぎませんが、それでも、長く言葉に向き合ってきた人たちの知識と経験、それに連なる思考が凝縮されたものであることは事実でしょう。
文章を書く媒体の決まりや書き手の希望が特になければ、「記者ハンドブックに従っておく」ことは無難な対応だと思います。
さまざまな表記の使い分けを知ることは、さまざまな書き手の言葉に対する哲学や美学を学ぶことでもあるので、文章を書く身として率直に面白いのですよね。
「良い」か「よい」か
よく使う言葉ですよね。
基本的には『良い』でよいが、補助的に使う場合は『よい』
記者ハンドブックの考えのようです。
つまり、上の文の通り、「『良い』でよい」という使い分けが成り立ちます。
「良い」が使われる場合
気分が良い、感じが良い、人が良い、頭が良い、成績が良い、品質が良い、良い機会――など
「よい」が使われる場合
「~してよい」「それでよい」「もうよい」「住みよい」など補助的に使う場合
なお、毎日新聞社が運営する用語解説サイト「毎日ことば」にはこうあります。
「それでよい」「…してよい」「住みよい」など本来の意味が薄れ付属的に使われる「よい」はひらがなで書いています。
漢字を使うのは「○○が良い」「良い○○」など意味の独立性がある場合ですが、「気性が善い」「行儀が善い」「善い行い」などは「善」。
「一つ」か「ひとつ」か
基本は漢数字の「一つ」。「いまひとつ」「もうひとつ」など副詞的に使う場合は平仮名
記者ハンドブックの考えです。
一方、前出の「毎日ことば」によると、文化庁が過去に行った「国語に関する世論調査」で、官公庁などが示す「お知らせ」や広報の文章などに使う表現として、「一つ、二つ、三つ」と「1つ、2つ、3つ」のどちらがいいか質問したところ、「一つ、二つ……」の漢数字を選んだ人が23.6%、「1つ、2つ……」の洋数字を選んだのは66.3%で、「洋数字が良い」が3分の2を占めたといいます。
そのうえで、文化庁のウェブサイトの「数字の使い方」には、「横書きでは算用数字、縦書きでは漢数字を使う」と書かれていたそうです。
ただ、「横書きであっても、語の構成用語として用いられる数などは、漢数字を用いる」とあり、毎日ことばは「この伝でいくと、横書きでも『ひとつ、ふたつ』は漢数字を用いることになる」としています。
「語の構成用語」の意味がわかりづらいのですが、毎日ことばでは下のようにまとめていました。
毎日新聞用語集はこの(文化庁の)たたき台と同様に、「ひとつ、ふたつ」などは縦書きでも横書きでも漢数字を用いることとしています。
これらは漢字の訓読みであるという立場からです。数量を表す場合には洋数字を用いるのが原則ですが、「一つ」から「九つ」までという限定的な数については別扱い。
なるほど。「漢字の訓読みだから、『ひとつ』から『ここのつ』までは漢数字」という考えは理解できますね。
「1人」か「一人」か「独り」か
- 人数を示す場合…「1人」
- 慣用句や決まり文句など…「一人」
- 「孤独」「独断」「独占」「単独」の意味があるとき…「独り」
わかりやすい考え方ですね。
洋数字が使われるケースとしては「4人のうち1人」「1人死亡2人重傷」など、漢数字が使われる場合は「一人旅」「一人芝居」「一人っ子」など、「独り」が使われるのは「独り言」「独り勝ち」「独り立ち」「独りぼっち」など――になります。
「事」か「こと」か
- 具体的な事柄…「事」
- 抽象的な内容…「こと」
これも応用しやすいでしょう。
「事」…物事、出来事、作り事、考え事、争い事、事細かに、事欠く、事の起こり――など
「こと」…「あんなことになって」「うまいことを言う」「勝手なことをするな」「聞いたことがない」「~することにしている」「見たこともない」――など
「あんなこと」や「うまいこと」「聞いたこと」「見たこと」は確かに抽象的な意味合いになります。
「来る」か「くる」か
つい、何でも漢字にしてしまいそうなのが「くる(来る)」ですが、記者ハンドブックでは平仮名で表す場合を決めています。
補助動詞や「来る」の意味が薄れた場合に「くる」とする
これにならうと、「くる」の平仮名使用例は「頭にくる」「行ってくる」「帰ってくる」「~してくる」「ぴんとくる」など。
確かに、補助的に使われたり意味が薄れたりする場合は平仮名がしっくりきます。
「過ぎ」か「すぎ」か
以前のわたしのように、記者経験者でも知らない人がいるかもしれません。「すぎ」も漢字と平仮名の使い分けがあります。
「度を超えている」場合は「過ぎ」、時刻・年数・距離を超えているときは「すぎ」
理解しやすいですね。
- 「過ぎ」…「遊び過ぎ」「行き過ぎ」「食べ過ぎ」「出来過ぎ」など
- 「すぎ」…「50すぎの男性」「30㎞過ぎ」「昼すぎ」など
今回のライティングも、書きながら考えたり理解を深められたりできたので面白かったです。「表記に迷いやすい言葉」は定期的に書いていきたいですね。
フリーライターの庄部でした。
記者ハンドックの内容や使い方は下の記事で紹介しています。
このシリーズの過去記事で解説した言葉の一覧を載せておきます。興味のある人は記事をご参考ください。
- とき
- ころ
- あと
- つくる
- もと
- とも
- いかす
- できる
- とまる
- など
上の言葉の表記を解説している記事↓
- 「効く」「利く」
- 「表れる」「現れる」
- 「付ける」「着ける」
- 「始め」「初め」
- 「固い」「堅い」「硬い」
- 「取る」「捕る」「採る」「執る」
- 「変える」「代える」「替える」「換える」
こちらの言葉の表記を解説している記事↓
ライター向け有料記事
【OK8割】「通る」取材依頼書の書き方を元新聞記者が解説【見本あり】
【ここまで出すか】取材ライターの原稿料はどれくらい? 相場を公開
地方ライターが面白い独自ネタを探す方法【元タウン誌記者の実例】
会社員ライター志望者へ
記事内の情報、考え、感情は書いた時点のものです。
記事の更新情報はツイッター(@freemediwriter)でお知らせします。