ライター×お金

取材ライターは「文字単価」に捉われないで【まずは時給換算を】

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ほとんどのライターが「文字単価」と聞けばそれが何を意味するかはわかるでしょう。

中でも在宅ライターは仕事を受けるかどうかを考える際の指標の一つにしているようで、ツイッターなどのネット上では「私は単価●円の仕事をやるまでレベルアップした!」といったように文字単価を自分の市場的なポジションの一つとして話す人もいます。

しかしながら、取材ライターが文字単価を気にしすぎるといい仕事を逃す恐れがあるとわたしは考えています。

なぜかというと、在宅ライターと取材ライターは仕事の内容と工程が違っていて、取材ライターの場合、文字数が増えた分だけコストが増えるわけではないからです。記事のテーマについて伝えたいと思う熱量も違ってくると思います。

「取材ライターは文字単価を気にしすぎるな」とフリーライター・ショウブ(@freemediwriter)が言う理由は何か。取材ライターが仕事を受けるかどうかを検討する際に文字数をどう捉えるといいのか。

取材に関心のある人は参考にしてみてください。

文字単価

1文字当たりの原稿料。原稿料を文字数で割ることで算出できる。3000字で3万円の案件であれば、30000÷3000=10で文字単価は10円。

「文字単価」浸透の原因は在宅ライターの増加?

「うちは文字数で伝える文化がなくてね」

仕事の条件について打ち合わせていた時、ある新聞社系出版社の編集者はこう話しました。

雑誌や広報誌などの紙媒体で長く仕事をしていた編集者は、ページ当たりの原稿料を伝えることがほとんど。

こちらが文字単価を把握するために1ページの文字数を聞いても「えっと…。1300文字くらいかな?」といったように即答できないこともあります。

おそらく文字単価の概念がライター側に浸透したのは、クラウドソーシングサービスが普及して在宅ライターが爆発的に増えたからでしょう。

紙幅が限られている紙媒体とは違って、ウェブの世界は決まりを設けなければ何文字だって書けます。事実、ウェブメディアによって文字数はまちまちなので、在宅ライター側としては文字単価に換算することでその仕事の原稿料に対する労力、つまり「割に合うか」をイメージしやすくさせたのではないでしょうか。

文字単価をどう捉えるかは人によりますが、クラウドソーシングサービスを利用する在宅ライターの世界では単価0.1~1円くらいからスタートして、実績を積むことで単価が徐々に上がり、10円を超せば報酬的に「いい仕事」「悪くない仕事」とみなされるよう。

あくまでもわたしの印象です。

クラウドソーシングサービス

インターネット上で仕事を発注したい企業と仕事を探している人をつなぐサービス。

ライターやデザイナー、システムエンジニアなどのクリエイティブ職に対する案件が多い。「ランサーズ」と「クラウドワークス」が大手。

気づいた「文字単価を気にしすぎるのは違う」


わたしが独立した2016年当時でも既にネットの中では文字単価に触れるライターの発言が踊っていましたから、わたしも最初はそれを指標の一つに仕事を受けるかどうかを考えていました。

「1文字3円って安いね」「これは1文字10円だから悪くない」

実際には、原稿料だけではなく仕事の内容や担当者との相性、将来性など複数の要素から判断するわけですが、少なくとも経済的な面ではこんなことを考えていたわけです。

しかし、そんな考えが変わっていきました。

今年2019年に入ってからでしょうか、経験が増えるにつれて「文字単価を気にしすぎるのは違うな」「いい仕事と出合うチャンスが減ってしまうかも」と、こんな風に思うようになったんですね。

文字数が増えた分コストが増すわけじゃない

わたしの考えがなぜ変わっていったかというと、「1時間ほど取材すれば一人称記事で6000字くらい書くのは難しくない」と気づいたためです。

一人称…話し手や書き手が自分自身を指す語。「わたし」「わたしたち」など。

三人称…話し手や聞き手以外の人や物を指す語。「彼」「彼女」「あれ」「それ」など。

一人称記事は「わたしは~した」、三人称記事は「Aさんは~した」と表現される。このブログ記事は一人称記事。ニュース記事は三人称記事。

三人称記事の方が地の文と会話文の使い分けなど考えることが多いため、一人称記事よりも難易度が高く、時間がかかる。

その一方で、取材時間が1時間未満の、たとえば30分くらいの仕事は過去にほとんどありませんでした

2000~3000字ほどの案件でもクライアントは取材先に1時間ほどの時間をもらっていて、聞き手としてはあまり早く切り上げるのは気まずい。

それに何より、プロ魂というと大げさですが、取材ライターの心理としては「たくさん聞いてその中から面白い素材を見つけよう」と規定に足る情報量を手に入れたとしても「もっともっと」といろんなことを聞きたいものです。

結果的に2000~3000字ほどの案件では聞いた中から面白い素材をピックアップしながら書き、6000字ほどの案件だと捨てる素材は少なくなるものの1時間取材すれば書ける。

「文字数が増えてもその分コストが増えるわけではない」と気づいたわけですね。

ライティングには推進力が働く、文章増は問題なし

単純にコストが倍になるわけではないのはライティングでも同様です。

ライターであればわかると思うのですが、書くうちにノッてくることってありますよね。

「気づけば1時間くらい猛烈に書いていた」とか「ついつい書きすぎてしまった」とか。

ライティングには推進力が働くわけで、わたしの場合、最も難しくて時間がかかるのは構想と書き出しです。

読者をどう引きつけて文章をどう流し、途中でどう外して最後にどう落とすか。極論、こういった構想が仕事であって、あとは手の運動に任せている作業の要素が大きい。

最初をクリアすればあとは比較的に楽であり、さらに書いているうちに推進力が働くので、一人称記事の場合、1500字書くのと倍の3000字書くのとで負担感はさほど変わりませんし、4000字書くのと6000字書くのとでもそれは同様です。

たとえば、ある2000字と6000字の案件を一つずつピックアップして比べたところ、2000字の方にかかった時間は4時間、6000字の方にかかった時間は5時間でした。いずれも医療機関を紹介する一人称記事ですが、時間の差はわずか1時間しかなかったのです。

文章が増えても途中から推進力が働く一方、規定の文字数が短いとどの情報を載せて載せないかを考える時間が長くなり、さらに校正の時点でも規定に合わせてカットしていくことがあるのでこういった結果になるのでしょう。

単価が低いのに原稿料と時給が倍になることも

こんなふうに、書く必要のある文字数が増えたとしても、6000字までの案件であれば取材時間は変わらず、一人称記事であれば書く時間の差も1~2時間程度で済むわけです。

これらのことを踏まえて下の2つの案件を見たとき、どんな印象を持つでしょうか。

  • 2000字 3万円 単価 15円
  • 6000字 6万円 単価 10円

文字単価を見ると2000字の案件の方が良さそうですが、原稿料は6000字の案件が倍です。

時給に換算してみましょう。

取材場所がどちらも自宅から電車で30分(往復で1時間)、取材準備と取材時間がそれぞれ30分と1時間ずつ、ライティングにかかる時間が上に挙げたように2000字案件が4時間、6000字案件が5時間だとすると、それぞれの案件の終了までにかかる時間は、

  • 2000字案件 6時間半
  • 6000字案件 7時間半

時給に換算すると

  • 2000字案件 約4600円
  • 6000字案件 8千円

どうでしょうか。

文字単価だけを見ると2000字の案件の方が経済的にはいいわけですが、仕事を終えるまでにかかる時間が1時間しか違わないため、6000字案件の時給は倍近くになります。

ということは、6000字案件の6万円を得るために3万円の2000字案件を2回やるとすれば、時間は倍近くかかるということです。

在宅ライターが単価を気にする理由

在宅ライターが文字単価を気にする理由の一つは、記事の素材を得るのに時間がかかるからではないでしょうか。

自分の経験に伴う予備知識を生かしたライティングを除いて、在宅ライターは基本的にネットや雑誌、本で情報を仕入れて文章を書くわけですから、書く文字数が増えれば増えるほど単純にリサーチの時間が増えるでしょう。

となれば、必然的に文字数と案件終了までにかかる時間、文字単価に着目せざるを得ないわけで、「3000字も6000字もそんなに変わんないなあ」と思うわたしの感覚とは違うのではないかと推察されます。

取材ライターの方が「伝えたい」思いも強い

取材ライター
また、読者に伝えたい熱量も違っていて、それは取材ライターの方が大きくなりやすいのではないかと思います。

わたしも独立前後に何度かクラウドソーシングサービスを使って在宅ライティングを行ったことがありますが、取材記事に比べると気持ちはそんなに乗りませんでした。

確かに自分の知識を増やせる面白さはありました。自分の知ったことをわかりやすく伝えたいなと思う気持ちもあった。

でも、それ以上の感情の高まりはなかった。

取材案件であれば、自分の本当に知りたいことを直接、詳しい人にぶつけられます。

取材先やテーマに関することを事前にネットなどで調べて知識を得て、その上で疑問に感じたことを先方に聞くので、在宅案件よりも発見が多く、感動も大きい。

さらに、取材相手が抱えている問題意識やそれを解消するための努力、切実な思いを直に知ることができます。

取材相手が魅力的な人だとなおさらですが、書き手としては「このテーマは読者に伝えないといけない」「この人の魅力を存分に引き出せる文章を書きたい」というような使命感が生まれてくるですよね。

重視するのは文字単価以外の4点

こういったことから、わたしは今、一人称記事であれば文字単価をさほど考えていません。

  • 仕事が面白そうか
  • 原稿料が低くないか
  • 担当者と合いそうか
  • 自分の将来を考えたときにその仕事をやるとよさそうか

主にこの4点を考えた上で仕事を受けるかどうかを判断しています。

文字単価を気にしすぎると自分にとってのいい仕事、楽しい仕事を逃してしまう恐れがあると思うので、取材ライターの人はあくまでも指標の一つに留めて、こだわらない方がいいのではないでしょうか。

フリーライターの庄部でした。

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