文章作成支援システム「文賢」の有効性を検討する連載の第二弾。
文賢は果たして使えるのか?
読者の最大関心事はずばりこれでしょう。
無料や低価格のサービスであれば気軽にお試し感覚で使うことができますが、文賢はそうではありません。使用感などを事前にリサーチしたい人が多いのではないでしょうか。
そこで今回は、フリーライターのショウブ(@freemediwriter)がトライアルアカウントを取得してこのシステムを利用した感想を語ります。
結論から言うと、他のさまざまなサービスと同様に文賢も「全ての書き手に有用なものではない」と思いました。
具体的には下の通りです。
文賢の有効性が高いと思われる人
- 多くの外部ライターを抱えるメディアの編集者
- 記者・ライター経験のない企業広報
- ライター初心者
- 誤字脱字の多いライター
- 優秀なデスクや編集者から校正されてこなかったライター
文賢の有効性が低いと思われる人
- 出版社や新聞社で2年以上、記者やライターを務めた人
- 誤字脱字が少ない傾向にあるライター
- 優秀なデスクや編集者から文章を校正されてきたライター
わたしにとっては有効性が低く、率直に言えば「費用に見合ったサービスじゃない」と思いました。が、一方で相性がいい人も思い浮かびました。
わたしがこんなふうに考えた理由を、システムの画像付きでレポートしますね。
連載1回目は下の記事です。
文賢の機能の概要と費用
まずは、文賢の機能の概要と費用を説明しておきます。
文賢の機能
文賢にはライティングをサポートする機能が複数あり、主なものは下の通りです。
- 校閲支援機能…誤字脱字や間違った表現などをチェック
- 推敲支援機能…文章の読みやすさを損ねるかもしれない要素をチェック
- アドバイス機能…読者に誤解を与えるかもしれない要素を抽出したチェックリスト
詳しくは前回の記事をご参考ください。
文賢の費用
文賢の費用はこちら。
ライセンスは利用者の単位で、1ライセンス=1ユーザー。スタンダードプランの場合、1ライセンスの初期費用として1万800円(税別)がかかり、それとは別に月額費用として1980円(同)かかります。
費用への印象は人によって異なると思いますが、わたしは「初期費用が高いな」。
トライアルアカウントが発行される条件
わたしは今回、お試しとして文賢を無料で3日間使いましたが、なぜこうしたことが可能だったか。
説明会に参加したからです。
文賢を販売するIT企業「ウェブライダー」は2020年現在、月に3、4回の頻度でビデオ会議システム「Zoom」を使い、無料のオンライン説明会を開いています。
今のところ、この説明会に参加してアンケートに答えた人はトライアルアカウントを発行してもらえるんですね。
ライター庄部の文賢利用結果
わたしが文賢を利用したのは2020年8月27日から29日までの間で、システムに反応させた原稿は3本です。
1本目は、飲酒の健康への影響について書いた記事「悲報…『少量飲酒は体にいい』説を否定する論文が発表されていた」の、編集者に送った原稿です。
ワードデータはこちら。
これを文賢の画面にペーストしました。文賢はクラウドツールであり、ネット環境であればどこでも使うことができます。
では、校閲支援機能の結果から見ていきましょう。スマートフォンの場合、画像は指で拡大できますが、何もしない状態だとパソコンの方が見やすいです。
画面左の「校閲支援」にハイライトがついていて、右に結果が記されています。
「とくに問題ないよう」とのこと。
次に、「校閲支援」の下に表示されている「推敲支援」をクリック。
まず、「同じ助詞の連続使用」について言及されました。
「お酒の影響の実際のところ」の部分で、「の」が3つ使われているので「念のため確認を」とアナウンスされています。
これは自分で校正していたときから把握していて、それでもリーダビリティーを損ねるほどではないと判断した表現です。
どうでしょうか。
「修正が必須」とまでは思わず、また編集者もここは直していませんでしたが、「お酒の影響の実際について」など、「の」を一つ減らしてもいいかもしれません。
右のスペースには、指摘した理由と改善例も書いてくれています。丁寧ですね。
これは、文賢にペーストしてみた2本目の原稿の推敲支援機能の画面です。
二重否定表現について指摘されています。
「多くの人が喉の機能の重要性を意識してはいないのではないでしょうか」の「いないのではないでしょうか」の部分ですが、これについても書いている段階で二重否定表現であることを把握し、意図的にこうしています。
二重否定表現はシステムが言う通り誤解を招く可能性がありますが、効果的な場面もあるのですよね。
システムも「肯定の意味を強めたいときや、はっきり物事を述べにくいときに使用します」としています。
この場合は「はっきり物事を述べにくいとき」です。
上の画像の通り、校閲支援機能、推敲支援機能ともにシステムが反応する要素を調整できます。
「こんな指摘は要らないな」と思えばオフすることが可能。
続いて、文章表現機能の画面です。
文章上の「賢い」について、右に複数の言い換え表現を示してくれています。
今までに紹介した「校閲支援」「推敲支援」「文章表現」が、文章の内容にシステムが反応するもの。
主な機能の最後に挙げたアドバイス機能は固定のチェックリストで、具体的な内容は下の通りです。
「わかりやすい文章をつくるためのチェックリスト」
- 主語と述語の距離は近いか
- できるだけ最初に結論を書くようにしているか
- 箇条書きを用いて、整理できる箇所はないか
- 長い修飾語は前に、短い修飾語は後に書いているか
- 読み手に共感してもらうための感情表現を意識しているか
「公に発信する際に注意すべきチェックリスト」
- 今日は誰かにとってセンシティブな日のため、投稿を自重したほうがよい日ではないか
- いたずらに煽(あお)っていないか、ただ読み手を不安にさせて放置していないか
- LGBTなど多様な愛や性の在り方に配慮できているか
- パワハラやセクハラだと受け取られる内容でないか
- 過去に投稿した内容との一貫性に問題はないか
――出典:文賢公式サイト
原稿を編集者に提出したり、世に出したりする前に「これをチェックしておくといいのでは」といった趣旨のものです。
ほかにも、文字数や漢字の使用率が画面の上に表示されたり、音声を機械が読み上げてくれたりする機能もあります
文賢を使ってみた感想
- 校閲支援機能→有益なフィードバックが少ない
- 推敲支援機能→少し参考になる
- 文章表現機能→あまり役に立たない
メディア掲載用に編集者に送った原稿を2本、最終校正前のブログ記事1本を対象に文賢を使ってみました。それぞれの機能への感想はざっくり、こうです。
校閲支援機能の感想
まず校閲支援機能についてですが、有益なフィードバックは少なかったですね。
1本目の原稿に対しては指摘が全くなく、2本目と3本目は2、3アドバイスがありましたが、修正の必要があるものは1カ所だけでした。
それは誤字か脱字だったと記憶していますが、3本の原稿の文字数がトータル1万字を超える中で一つだけだったので、「有効性はさほど」という印象です。
推敲支援機能の感想
続いて推敲支援機能。これは「少し参考になった」という感触でした。
「助詞の連続使用」「同じ文末表現を3回連続使用」「一文に読点が4つ以上ある」「一文が50文字以上なのに読点がない」などが「可読性を落とすかも」とアドバイスしてくれたので、改めてその箇所を見直す機会にはなりました。
わたしは肌感覚で文章の読みやすさを判断していますが、文賢がその要素を言語化してくれ、また数字として指標を示してくれたことは参考になりました。
一方で、「それはわかっている。意図的にやってる」という箇所がわたしの場合は多かったので、「役に立つ」というレベルには至りませんでした。
文章表現機能の感想
この機能もあまり役立ちませんでした。
そもそも精度が低いのです。
言い換え候補の意味合いの幅が広すぎて、スクロールしてさまざまな候補を見ていかないと対象の言葉の意味に近いものが見つかりません。
また、見つかったとしても知っている表現ばかりでした。高校生までに目にするものが多い印象です。
ほかの機能の感想
漢字の使用率がわかるのはいいと思いました。説明会で広報の方も話していましたが、自分の文章の硬さ、柔らかさ、読みやすさを判断する材料になります。
一方で、音声読み上げ機能は役に立ちませんでした。
「まさに機械が読んでいる」といった印象で、肉声とはイントネーションが異なりますし、息継ぎの場所も人間と違います。
わたしの場合、イントネーションの違いが気になって肝心の文章の内容やリズムが頭に入ってきませんでした。自分の肉声を録音して聞く方がよほど効果的でしょう。
しかもこの機能は一時停止ができません。停止してから再生するとまた頭に戻ってしまうのです。長文の可読性を判断するのに適していないんですね。
総じて、課題の残る出来でした。
文賢の短所は費用感
こんなふうにわたしにとっては有効ではなかったのですが、そんな印象を感じた理由には費用感も関わります。
先述の通り、スタンダードプランだと初期費用が1万800円(税別)で、月額1980円(同)。文賢を使うメリットと比べて高すぎると思ったんですね。
初期費用がない、もしくはあっても3千円くらいでしたらブログ記事の企画のためだけであっても購入したかもしれません。月額費用も1000円くらいでしたらメリットとのバランスから継続利用を検討しやすいです。
説明会で社員の方に初期費用がかかる意味について聞いたところ、「アカウントの用意にかかるもの」と話していました。
企業との質疑応答の様子も前回の記事に書きました。
この説明、いかがでしょう。
「アカウントの開設にそんなに手間がかかるのか?」「いやいや、そんなにかからないでしょう」
そう、わたしのように思う人が多いのではないでしょうか。
「文賢は弊社が独自に開発したサービスであり、価値があるものと考えている。その対価としてまずは初期費用をいただいている。月額は継続的にシステムを利用するための料金と判断していただければ。
弊社では文賢のシステムを常に改変し続けていて、利用者からいただいたお金はそれにかかるコストの一部に充てさせてもらっている」
実際はどうか知りませんが、こんな説明であればまだ理解ができるのではないでしょうか。
説明内容に疑問を感じました。
文賢と相性がいい人もいる
わたしと文賢の相性は悪かったのですが、それはわたしに下のような特徴があったためだろうと思います。
- 会社員記者として7年のキャリアがある
- 記者時代にデスクから数多くの指摘を受けた
- 会社員時代から誤字脱字は少なかった
新聞社や出版社で数年のキャリアがある人であれば、デスクや編集者から多くの指摘を受けているので、文章の可読性を高めたり損ねたりするパターンを肌感覚として身に付けている可能性が高いでしょう。
費用を含めて考えたときに文賢の有効性は低くなるわけです。
一方で、文賢と相性がいい人もいるだろうと思います。
それはまず、多くの外部ライターを抱えていて、彼ら彼女らの文章力を高めたいと考えているメディアの編集者。
文賢はライセンスの取得数が増えるほど月額費用が安くなるので、企業が購入したライセンスをライターにも配り、企業への原稿提出前に必ず文賢でチェックしてもらうようにすれば企業の負担は減るでしょう。
編集者自身が校正する際にもある程度有用でしょうし、また編集者・校正者の少ない企業が、ダブルチェックを図る上での二番手に文賢を充てるという方法も考えられそうです。
こんなふうに、費用とのバランスでは、文賢は個人よりも企業との相性がいいサービスだと思います。一般的に、企業の方が個人よりも経済的な体力がある一方、文賢は企業と個人とで費用の差を設けていないためです。
あとは冒頭に挙げた通り
- 記者や編集者としての経験がない企業広報
- ライター初心者
- 誤字脱字の多いライター
- 優秀なデスクや編集者から校正されてこなかったライター
こういった人であれば有効性は高まりやすいと思います。
文賢は、読者心理を考慮した「優しい」アドバイスをくれるので、企業のオウンドメディアやSNS、プレスリリース作成など世間の印象にコミットする業務を担う広報であれば、役に立ちやすいでしょう。
ライターであっても、「初心者でいい校正者と出会えない」「文章力が原因で仕事が来なくなることがある」といった人で、向上心のある人であれば自分への投資として文賢を使うのはありだと思います。
文賢が指摘する内容はトータルに文章力を上げるためにある程度有用だと思うので、3カ月ほど集中的に文賢を利用し、文賢のアルゴリズムの“いい癖”を盗むといった視点で活用するのは価値があるのでは。
文賢よりも有効な文章力アップ法
- 新聞、雑誌、小説を毎日読む
- 辞書や記者ハンドブックを引く習慣をつける
- 優秀な編集者と仕事をして記事を添削してもらう
- まずは会社員記者として経験を積む
長期的に文章力を磨いていくためには、上の1と2の方が大切だろうと思います。
日常的に新聞、雑誌、小説を読みながら、文章を書くときに小まめに辞書と記者ハンドブックを引く。
もし可能であれば③と④も合わせる。
こういったことを考えながら、自分の属性や状況によって文賢の活用を絡めるといいのかなと思いました。
特に、③と④が難しい人には役立ちやすいのでは。
「文賢」公式サイト
①~④に関連する記事も書いているので、良ければ参考にしてみてください。また、上に添付した飲酒関連の記事を編集者がどう校正したのかレポートしたものもはっておくので、「人間の校正」について考えたい人は読んでみるといいかもしれません。
文章全体の「構成」や要素の「組み換え」について言及できるのが人間の強みです。文賢をはじめ機械ではまだそこまでできないでしょうから。
記事内の情報、考え、感情は書いた時点のものです。
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